自信に満ち溢れたその言動だとか、静かに山を登る姿だとか、自他共に認める美しさだとか、人当たりの良さだとか。それら全てが、東堂尽八という一個人の魅力であり、またわたしの好きな彼の部分でもある。これだけの好きなところを並べて、尽八のことを考えて、またさらに尽八を好きになる。




けれどそれでも、わたしには彼の全てを知ることはできない。例えば彼が夢中になるロードレースに、わたしはそこまで詳しくない。詳しくないから、あまり大会の応援にも行ったことがない。そしてそのロードレースのライバルであるらしい、巻ちゃんさんのことも、尽八から聞かされる程度の情報しか持ち合わせていない。巻ちゃんは速い、巻ちゃんは素晴らしい、巻ちゃんは俺ほどではないが美しい、それくらい。




わたしが尽八の全てを知ることができないように、きっと尽八もわたしのことを全ては知らないだろう。天に三物を与えられた彼といえど、わたし自身が語っていない、わたしのことはわからないはずだ。
それでもわたしは彼が好きで、彼もわたしを好きだと言う。好きという気持ちは、相手のことを少ししか知らなくても成り立つのだ、とわたしは尽八に出会って知った。




「当たり前だろう、」




何を言っているんだ、と言わんばかりの表情をして、尽八はそう呟く。




「相手を知っているから好きになるわけではない、好きになったから相手を知りたくなるのだ。」




「…じゃあ、わたしが尽八を知りたいと思うのは、尽八のことが好きだからなのかな。」




「そうだろうな。俺もお前のことを知りたいと思うが、それはお前が好きだからなのだろう。」




「…そっかあ。」




尽八に好きと言われるのは、嬉しい。知りたいと言われるのも、もちろん嬉しい。尽八も同じ気持ちなのだろうか、そうだったらもっと嬉しい。
これもまた、尽八に出会ってから知った。人を好きになると、嬉しいと思うことがたくさん増える。




「尽八の恋愛観は、すごいよね。普段女の子にキャーキャー言われて調子に乗ってる人と同一人物だと思えないくらい、はっきりしてるしまっすぐだし。もっといい加減な考えで、女の子と付き合ってるのかと思ってた。」




「心外だな、そんな風に思われていたとは。そういうタイプなら、俺より新開の方が近いだろう。」




「…たしかに、新開くんはそれっぽいね。去る者追わず来る者拒まず、みたいな。とりあえず好きになってくれて、ヤらせてくれれば誰でもいいっぽいカンジ。」




「はっきり言うな。…だが、そういうところも好きだぞ、なまえ。」




カチューシャで上げてるのにも関わらず、少しだけ額あたりに残っている前髪を揺らして、尽八は笑う。笑った顔もきれいだ。ああ、好きだなあ。




「今、俺が好きだなあと思っただろう。」




「あ、わかった?」




「俺も思ったからな、なまえが好きだと。」




同じだねって笑えば、尽八もそうだなって笑った。わたしは尽八のこういうところも好きだ。同じところを見つけて喜ぶわたしと、一緒になって喜んでくれる。でも絶対に、綺麗事は言わない。
これが新開くんだったら、おめさんのことなら何でもわかるさ、なんて甘ったるいセリフを言うんだろう。そういうのが好きな女の子もいるかもしれないが、わたしは苦手だ。相手の全部を知ることなんてできないし、たとえば本当に何でもわかるとしても口に出して言うものではない。相手に何でもわかってしまったら、そこがその人にとっての限界になってしまうから。出せる部分も、これから見つけるはずだった自分も、なくなってしまう。




「それでいいのだ。」




尽八は、笑う。自分でも言うほどに、とても素敵な美しい笑顔で。




「お前の全てなど、俺が一生をかけても知りきれないだろう。俺の一生に収まるほど、お前はちっぽけな人間ではない。でも、それでいいのだ。知りきれないからこそ、もっと知りたくなる、もっとお前を好きになる。この東堂尽八という器にさえ収まりきらないお前は、とても魅力的な人間だ。」




尽八の長い指が、するりと耳上の髪を撫でる。こうして撫でられるのが嬉しくて、髪の手入れを念入りにするようになったこと、尽八は果たして知っているのだろうか。




「なまえ自身でさえ、まだ知らない自分がいるだろう。それを俺は共に見つけていきたいと思うし、俺だけが知らない部分は、知り得る限り知っていきたいと思う。好きとは、そういうことではないか?」




「…そう、なのかなあ。わからないや。尽八のことを知りたいとは思うけど。」




「わからずともよいさ。俺の言葉がお前の全てになってしまっては困るからな。何もかも俺に染まる必要はない。俺を知りたいという、その気持ちだけで十分だ。なあなまえ、俺が好きだろう?好きだから、俺を知りたいのだろう?」




「…うん、それはその通りだね。尽八が好きだから、知りたい。違うところも、同じところも。」




髪を撫でていた手が、するりと肩まで降りてきて、そのまま尽八の方へ引き寄せられる。細く見えるのに逞しい体がわたしを受け止めて、尽八のぬくもりを体中で感じる。絡むように背中に回された腕が、力強くわたしを捕らえた。




「…お前のその、真っ直ぐなところが好きだ。愛おしくてたまらない。世界中のどんな女子よりも、なまえが俺に相応しい。」




「…わたし、幸せだなあ。登れる上にトークも切れる美形な尽八に、そんな風に言ってもらえるなんて。」




「ワッハッハ、そうだろうそうだろう。」




そうやって褒めると調子に乗るところも、わたしを抱く腕の力を強めてくれるところも、頬を摺り寄せてくる癖も、大好きだよ。













キャラソンかっこよかったです\(^o^)/

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