「みょうじさんっ、」




休み時間、タイシと二人で自販機に向かって廊下を歩いていると、突然背後から呼び止められる。




ほとんど反射的に足を止めて振り返れば、俯いている一人の女子生徒。この子は…たしか同じ学年の子だったはず、クラスまではわからないけれど。




「あのっ…これ、櫂くんに渡してほしくて…」




震えながらわたしに突き出してきた両手には、可愛らしい袋の包みと封筒。察するに、トシキへのプレゼントと手紙だろう。おとなしそうな子だし、きっと自分で渡す勇気がないんだろうな。




「うん、いいよ。渡しとくね。」




わたしの返答に、その子の顔がぱあっと華やぐ。よく見ると、なかなか可愛い顔立ちだ。




「ただね、わたしは一応トシキに渡すけど、それをトシキがどうするかまでは保証しないからね?受け取ってくれるかもわからないし、仮に受け取ってもトシキが自分で捨てちゃうかもしれない。それでもいい?」




「…うん、大丈夫。ありがとうみょうじさん!」




わたしが手中の包みを受け取ると、嬉しそうな顔をして、その子はわたしたちの前から去って行った。淡いピンク色のラッピングが、彼女の可愛らしさによく合っていると思う。




「モテんなー、櫂のやつ。」




「そうだねえ。」




「…お前、他人事みたいに言ってる場合かよ?」




ちらりとタイシの方を見ると、顔を顰めて複雑そうな表情。視線は、わたしが持っているプレゼントと手紙に注がれている。




「…それ、渡すのか?」




「渡すよ、当たり前じゃん。」




「…あのなあ、お前仮にも、櫂の彼女だろ?」




タイシにぴしゃりと言われて、思わず体がかちりと固まる。呆れたようなタイシの表情を映して、ため息を一つ吐き出した。




…たしかにわたしは、一応トシキの彼女という立場にある。でも学校では、基本的にタイシも含めて三人でいるため、そのことを知らない人も多い。




「普通断るだろ、そーゆーの。」




「うーん…そうかなぁ…。」




それに加え、わたしは女の子たちから頼まれるプレゼントや手紙を断らない。なので余計に、わたしとトシキが付き合っているという考えに結びつかないんだと思う。
(別に、それはそれでいいんだけど)




「でもだってさ、わたしがトシキと付き合ってるからって、あーゆう子たちにトシキを好きにならないでっていうのは、なんか違う気がしない?」




「それはお前、そーだけどさ。でもわざわざ取り次いでやるのもおかしいし、変に期待させるようなことしねー方がいいんじゃねーの?」




「そこらへんは大丈夫だよ、本人がバッサリ断るから。」




「…なんだかなぁ、お前らは…。」




苦笑しながら言うタイシに背を向けて、トシキのとこ行ってくるね、って呟く。はいはい、って呆れたみたいな返事を聞いて、わたしは一人で駆け出した。




ーーーーー…




「…いたいた、」




屋上の扉を開けると、案の定と言うべきか、ど真ん中に堂々と寝転がっているトシキ。寝てるのか起きてるのかは、ここからじゃイマイチ判断がつかない。




「トーシキくーん、お昼寝ですか?」




「…なまえか、」




近づいて真上から見下ろすと、どうやら起きていたらしい。視界にわたしを捉えて、ふっと薄く笑う。




「三和はどうした?」




「タイシは別行動、わたしだけですみませんねーっと。」




トシキの横に彼に倣って寝転び、空を見上げる。青い、青い、どこまでも青い空。時折吹く風が、とても心地いい。




「気持ちいいねー。」




「…ああ。」




「トシキ、次サボる?」




「そのつもりだが。」




「じゃあわたしもそうしよー、トシキとお昼寝。」




笑いながらそう言うと、寝転がったままトシキが抱きついてきた。わたし抱き枕じゃないよー、って冗談で言えば、更にぎゅうぎゅう抱きしめられる。




「痛い!トシキ痛いって!」




「我慢しろ。」




無茶言いやがって、と思いつつ、トシキを睨む。そんなわたしに気づいたトシキは、ふっと笑って、おでこをくっつけてきた。




「…あ、ねえねえトシキ、」




「ん?」




「これね、女の子がトシキにって。」




「…またか、お前は。」




顔の間にぬっと突き出すみたいにして、さっき預かったプレゼントをトシキに見せると、呆れたようにため息を吐かれる。




「いらないから断れと、いつも言っているだろう。」




「…タイシにも言われたよ、断れって。」




預かったプレゼントを背後に隠すみたいに置くと、再びぎゅっと抱きしめられる。…学校で甘えてくることなんて、普段滅多にないのに。




「…だってね、好きって気持ちは平等だから。」




「……………………」




「もしあの女の子がわたしだったら…って考えると、受け取らずにはいられないんだよね。そんなことできないって言われたら、好きでいちゃいけないのかなって気になるもん。…わたしは、人が人を好きになる気持ちを否定したくない。たとえそれが、自分の大好きな人に対してのことだったとしても。」




ふわ、と頭に手が乗って、優しく撫でられる。わたしが泣いてる時とか落ち込んでる時に、いつもそうしてくれるみたいに。




「…お前は優しすぎる、誰にでも。」




「えー…そうかなぁ?」




「たまには、わがままになったらどうだ。」




「…わがままに?」




「俺のことくらい、独占しろ。」




その言葉に驚いて顔を上げると、甘い口付けが降ってきた。少し触れるだけで離れて、鮮やかな緑色に見つめられる。




「…ばーか、」




くすりと笑って、今度はわたしからトシキに口付けた。触れ合った部分から、少しだけ熱が生まれる。




「…そんなこと言ったら、トシキ他の女の子と話せなくなっちゃうよ?」




「別にいい、…なまえがいれば、それで。」




すごい殺し文句だなあ、なんて思いながら、それさえも嬉しいわたしは重症だろうか。




トシキのことを好きな子たちには悪いけど、これからはこう言おう。好きでいるのは構わないけど、あの人はわたしだけのものだからね、って。













Title by:休憩

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