する、とシーツの擦れる音で、ふと目が覚める。
未だぼんやりした視界と意識の中、わたしの頭を撫でる黒い影を認識した。
「―――――起こしたか、」
耳に甘く響くユウの声、幻みたいに儚いのにたしかにここにあると感じる。
「…ユウ、」
名前を呼べば近づく影、唇がそっと重ねられる。
ああ、心地よい
「…なまえ、」
微睡んでるのかユウに酔いしれているのか、よくわからないまま彼に縋りつく。
抱きついたぬくもりは、本物。感触も匂いも、何もかもが神田ユウという存在を作り上げるそれだった。
「…すき、」
うわ言みたいにぽつりと呟いて、逞しい胸板に顔を埋める。
背中に回された腕の強さが嬉しくて、わたしも彼を抱き返す。
「…なまえ、」
彼が呼んでくれるわたしの名前が好き
彼が抱きしめてくれるこの体が好き
わたしがわたしを愛おしむのは、彼が愛してくれるから
「ユウ、おかえり。」
窓の外の空は雲ひとつなく、星が瞬いている。
月は青白く光って、部屋を鈍く照らし出していた。
「…ああ。」
月光に照らされたユウは、返り血ひとつ浴びず、ひどくきれい。
本当に任務帰りなんだろうか、なんてつい考えてしまう。
「…なあ、なまえ、」
「うん?」
「…もう一度だけ、」
おかえりって、言ってくれねえか
わたしを抱きしめたまま、消え入りそうな声でユウが呟く。
「…おかえりなさい、ユウ。」
あたたかい腕の中、大好きな彼の存在を確かめるように囁く。
なだれ込むようにそのまま再びベッドに倒れて、二人一緒に目を閉じて眠りに落ちた。
スピカにおやすみ
Title by:花畑心中