「…あまい、」




ストローから口を離した虎太は、少しだけ眉間にシワを寄せながら呟いた。口元には何もついてないはずなのに、何故か腕で拭うような仕草をする。しかもそれがかっこいいから不思議だ。




「おいしくなかった?」




「…うまい、けど…あまい。」




そうだろうか、と思って虎太が口をつけたストローに、今度はわたしが口をつける。ずず、と吸い込むと、たしかに虎太の言うとおり、甘い液体が喉を通る。




ふわり、キャラメルのにおい。




「…おいしいよ、虎太。」




「だから、まずくはねーって。」




そう言って、虎太がもう一度ストローを咥える。透明なストローが、瞬間的にベージュに色づいたのが見える。




また、キャラメルのにおい。




「…やっぱ、あまい…。」




「でも、この前虎太と食べたクレープの方が、甘かったよ。」




「そうか?」




「うん。生クリーム、ベタベタだった。」




ふうん、とつまらなそうに呟いて、紙パックをわたしに差し出す。もういらないってことなのだろうか、とりあえず黙ってそれを受け取る。黄色なのかオレンジなのかわからないようなパッケージのそれは、まだひんやりと冷たい。




「…虎太、」




「…なんだよ、」




「…わたしは、好きだな、これ。」




コンビニで偶然見つけたこの飲み物は、どうやら新発売だったらしい。見慣れないパッケージに、ポップな文字と写真が踊っていて、すごく興味を惹かれた。ミルクキャラメルティー、名前の通り、ミルクキャラメルの味がする紅茶だった。




虎太みたいだと、思った。




長年一緒にいて、髪型が同じでも虎太と竜持と凰壮の区別がつくようになって、虎太を特別に思うようになって。そうしている間に、虎太の好みだってある程度わかるようになっていた。特に好き嫌いはなく、なんでもよく食べる虎太。だけど甘すぎるものは好きじゃないんだって、わかっていたのに。




立ち止まった先に見えた、このパッケージからわたしは目が離せなかったのだ。甘い甘いキャラメルの風味を脳が思い出させて、その後に虎太の顔が浮かんだ。




そう、このミルクキャラメルティーは、虎太みたいだと思ったんだ。




「…俺は、」




小さな声で、ぽつりぽつりと言葉をこぼす。弱々しくはないけど、虎太のこんな声はあまり聞いたことない。




「俺には、甘すぎる、けど、」




ーーーーーなまえがうまそうに飲むから、って呟く虎太。視線はわたしの手元にある、ミルクキャラメルティーに注がれている。




やっぱり虎太みたいだ、と思う。




「…わたしはね、虎太、」




虎太みたいだと思って、これ見て虎太を思い出して買ったんだよ。




紙パックを潰さない程度に握りしめながらそう言うと、虎太の瞳がゆらりと揺れた。




キツそうにつり上がっているけれど、竜持や凰壮のそれより、虎太の目は優しい。二重だからなのか、それともわたしがただ単に虎太を贔屓しているからそう見えるのか。どっちなんだろうか。




「…なまえ、」




呼ばれた名前に、何故か顔が熱くなる。虎太に名前を呼ばれるなんて、覚えてないくらいたくさんあったことなのに。




集まった熱を誤魔化すみたいに、もう一度ストローに口をつける。甘い、甘い、キャラメルの香り。




「…ひとくち、」




虎太の言ったその言葉が、もう一口飲みたいのだと理解するより先に、キャラメル味の唇を虎太の唇に押し付けていた。










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