窓から入り込む風は、秋から冬へと移ろうように、少し冷たさを孕んでいる。僕の腕の中にいるなまえが少し身震いして、くしゅん、と可愛らしいくしゃみを一つ。
「…寒い?」
それは自分でも驚くほどに、優しい声音だった。こんな優しい声を出せるなんて、僕自身今まで知らなかった。そんな考えを知ってか知らずか、背中から抱きしめている体勢の彼女が振り向いて、ふわっと微笑む。
「恭弥があったかいから、大丈夫。」
そう言って甘えるみたいに、僕の胸元に頭を預けてくるなまえ。子猫みたいだ、なんて思っても絶対に言わないけど。なんとなくそうしたくなって、柔らかい髪の毛に指を絡めて、頭を撫でてみた。
「ん、恭弥…」
「嫌なの?」
「嫌じゃないよ、もっと撫でて。」
口許が緩やかに弧を描くのが、わかった。なんだ僕、まさか今笑ってる?強い相手との戦いの時以外で、ましてや誰かの頭を撫でて微笑む日がくるなんて、夢にも思わなかった。
なまえといると、なんだか僕は僕でないような気分になる。彼女に出会うまで知らなかった、こんなあたたかい気持ち。
何が鬼の風紀委員長だ、と自嘲する。結局のところ僕も、感情に左右される一人の人間だった、ってことだろうか。
「…恭弥?」
鮮やかなソプラノボイスが、僕の名前を呼ぶ。そっと見下ろせば、透き通ったきれいな目とぶつかる。一点の曇りもない、まっすぐな目に僕が映っている。不思議とそれだけで気分がよかった。
「何?」
「…わたしのこと、好き?」
なんて馬鹿げた質問をするんだろう、この子は。僕がこんな風に誰かをそばに置いて甘やかすなんて、普通だったらありえないんだから、そこは察するべきなんじゃないの。
…でも、それがまた可愛い、なんて思うのも事実で、
「…好きだよ。」
ああもう、本当にどうかしてる。自分の口から、他人を慈しむ言葉が出るなんて、信じられない。
「…わたしも、好き。」
だけど僕の腕の中で無邪気に笑うなまえを見てると、らしくないとか信じられないとかそんなことが、全部どこかへ行ってしまうんだよ。胸いっぱいに広がる、このあたたかい気持ち、なまえがいなかったら、たぶん一生気づかなかった。
「大好きだよ、恭弥。」
ねえ、僕をこんな気持ちにさせた責任、とってよね?一生そばにいて。僕から離れるなんて、許さないから。
腕の中の小さな愛しい存在を確かめるみたいに、抱く力を少しだけ強めた。
こんなにも愛しいなんて、どうかしている 連れ去るさまへ提出