「―――――つまんないなぁ、もう終わり?」
数分前まで人であった"それ"を踏みつけて、わたしは笑った。
くちゃ、と濡れた音がして、血しぶきがブーツに飛ぶ。
「…お、のれ…ヴァリアー…」
呻くような声が足元から聞こえて、目線を下に落とした。
血溜まりに沈んだうちの一人が、苦しげに蠢いてるのが暗闇の中ではっきり見える。
「へえ、まだ生きてたの?」
黒いコートを靡かせて、死にかけのそいつに話しかけた。
相手の目は、敵でも見るかのように憎しみに満ちて、ぎらぎらと光っている。
(まあ実際に敵なんだけど、ね)
「わたしが行くまで黙ってれば、死なずに済んだのにね。」
武器をそいつに向けると、ゆるく口元が笑んだのが自分でもわかった。
「ばいばーい。」
ぐちゅり、血腥い音を最後に、今度こそそいつは息絶えた。
顔に少しだけ血が飛んできて、不愉快さが体に染みる。
「なまえ、終わった?」
背後からかけられたテノールは、この場に似つかわしくない呑気さを孕んでいる。
振り返って見ると、ナイフ片手に無邪気に笑うベルがいた。
「ん、こっちは全滅。ベルは?」
「しし、王子がしくじるわけねーじゃん?」
「…それもそうだね。」
ゆっくり立ち上がって、そのままベルにぎゅっと抱きつく。
わたしより頭一つ分高い位置にあるそこから、うししっと笑い声が聞こえた。
「お疲れ、なまえ。」
「ベルも、お疲れ様。」
わたしもベルもお互いに血塗れだったけど、そんなこと気にならない。
人を殺した後のこのなんとも言えない高揚感が、そのままベルへの愛しさに繋がって、胸がいっぱいになった。
「…ベル、好きよ。」
「ししっ、王子もなまえだーいすき。」
人を殺すことは快感だけど、こうしてベルに甘えてる時が一番幸せだ。
ベルの匂いが鼻腔から肺に流れ込んで、体中がベルでいっぱいになる。
「…なまえってさあ、」
「ん?」
「人殺った後、甘えたになるよな。」
「んぅ、」
きれいな形の唇が、そっと押し当てられるかのようにキスされて、思わず息が止まった。
ぺろりと上唇をベルの舌が舐めると、背筋を微弱な痺れが走る。
「ふ…べる、」
「ししっ、かーわい。」
「ひぁっ、」
首筋に唇が触れて、体がぴくりと震えた。
思わず身じろぎすると、足元の血溜まりがぴちゃりと跳ねる。
「ん…ベルっ…」
「…予定よりだいぶ早く片付けたしさあ、」
一発ヤって帰ろーぜ、ってベルが甘く囁く。
「ひゃ…あんっ、」
手近な壁に押し付けられて、そのままくるりと反転させられる。
後ろからベルの手がコートとスカートを捲り上げて、下着越しに秘部をなぞった。
「ひぅ…あっ、」
「ししっ、もー濡れてんじゃん。」
なまええろーい、って楽しそうに笑うベル。言い返せないわたし。
…まあ最初から、言い返す気なんかないんだけど。
「慣らした方がいい?」
「あっ…ん、」
するすると何度もそこを往復しながら、絶対にベルは直接触れてはくれなかった。
もどかしいばかりの快感が、ゆるゆると体に注がれて、腰がぴくぴく動いてしまう。
「う…ゃ、べる…」
「んー?」
「あぅ、んっ、も、ちょうだいっ。」
「…もう欲しーんだ?」
「んっ、ベルの、いれてぇっ。」
「しし…りょーかい、お姫様。」
カチャカチャと金属音がして、下着を少しだけずらされる。
熱い塊が入り口に当たったと思うと、そのまま一気にベル自身が押し入ってきた。
「あ!…っく、ひっ…」
「せ…まっ、力抜けって。」
濡れきっていた(らしい)ナカはすんなりベルを受け入れたけど、狭い入り口は無理やり押し広げられて痛みを訴えていた。
「あ、んっ…く、べ、るぅっ…」
「っ…なまえ、」
背中に折り重なったぬくもりから、とくんとくんと心臓の鼓動が伝わってくる。
「ふぁ…べるの、おっきい…」
「当たり前じゃん、だってオレ王子だもん。」
そんなの関係あるのか、なんて一瞬頭をよぎった考えは、ベルが律動を開始したせいですぐに消え去った。
「あ、んっ、やっ…」
「…やっぱ殺しも楽しいけど、」
なまえんナカに入れてる時が一番楽しいし気持ちいーな、ってベルが笑う。
ベルが同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、ナカがきゅんと締まったのがわかった。
「べ、る…だいすきっ、」
「ん、オレもだいすき。」
ほんの数分前まで殺戮所だった場所が、今はわたしとベルが愛し合う場所に変わってるだなんて、なんだか不思議だ。
でも、とりあえずもう余計なことは考えないで、ベルに溺れたい。
殺しで快感を得ていたわたしが、セックスでの快感に溺れたいなんて、自分で自分が滑稽で少し笑えた。
快楽主義者の遊戯