「…恭弥、」




強い意志を持ったきれいな双瞼が、まっすぐに僕を捉えて離さない。




だけど、彼女の唇から紡がれた僕の名は、それとは相反するかのように弱々しく頼りないものだった。




「…わたし、なんで、」




自分の腕を自分で掴んで、爪が食い込むほど強く握りしめるなまえ。




真っ赤な血が皮膚から滲むように溢れ出て、白い肌をぬるりと滑り落ちた。




「…ごめん、なさい…」




はらはらと涙が流れて、瞳がビー玉みたいに透き通る。




ぽたり、とこぼれた血が、コンクリートの地面に染みていく。




「…なまえ、」




ゆっくりと彼女に向かって伸ばした僕の手は、汚い血に塗れている。




僕のでも彼女のでもない、所謂返り血で。




「泣かないで、」




「きょう、や…」




「怖い思いさせたね、…ごめんね。」




ぐちゃ、と何かを踏み潰した感触が足裏から全身に伝わる。




何を言ったか聞き取ることもできないような呻き声が、血溜まりに吸い込まれた。




「…う、あっ…」




ふらりと体が前のめりに傾いて、なまえは僕に縋るようにしがみついた。




返り血に濡れた手で頭を撫でると、なまえの髪が深紅に染まった。




「…違う…わ、たしが…弱いから…」




「なまえ、」




「恭弥は悪くない…わたしが悪いの…わたしが全部…」




「それは違うよ、なまえ。」




僕がいなければ、彼女がこんな目に遭うことはなかった。




本当はわかってたんだ、彼女を巻き込むことになるって。




僕と一緒にいたら狙われるって、わかっていたはずなのに。




「…好きになってごめん。」




そばにいたい、いてほしいなんて思わなければ




彼女はこんな風に傷つくことなく、平和に暮らしていたはずなんだ。




僕のせいなんだ、なまえは悪くない。




「…わたしがっ、もっと強かったら…」




恭弥にこんな心配させることなく、そばにいられたのに




泣きながらなまえは、そう言った。




「強く、なりたいっ…」




「…うん、」




「恭弥に守られなくていいくらい…強く…」




「…うん。」




「…好きなの、恭弥が…。」




それは僕だって、同じだよ。




「離れたくないっ…!」




「…ありがとう、なまえ。」




足元に転がった屍たちは、夜の闇に鈍く染まっていた。











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