「…………………」




「…………………」




どうしてこうなった。いやまあたしかに、わたしはグリーンに告白するつもりだよ。つもりだったよちゃんと。




―――――ことの起こりは、数時間前に遡る。




シロガネやまのポケモンセンターでレッドとバイバイしてから、手持ちのポケモンたちとトキワジムを訪れたわたし。




来なれた場所のはずなのに、まるで初めてジムに挑むかのような緊張感に覆われつつジムの扉を開けると、そこはまさに地獄絵図だった。




壁にクレーターのような穴は空いてるわ、天井にいくつも焦げ跡はあるわ、トキワジム特有の矢印パネルからは煙やら火花やらが上がっていた。




「―――――ああっ、なまえさん!」




サンダーとファイヤーとフリーザーが一騎討ちをした後のような殺伐とした光景の中、ジムトレーナーたちがわたしを見つけて半泣きで駆け寄ってきた。
(どうしたんだろう、)




「もうなまえさん!勘弁してくださいよ!」




「え…なにが…」




「リーダーこの間から、荒れて荒れて大変だったんですから!」




「えっと、」




「何があったか知りませんけど、早いとこ仲直りしてください!」




「…………………」




話から察するにあれか、わたしともめたグリーンが荒れてジムを破壊し、更にはトレーナーにまで被害が及んだのか。
(中でもヤスタカくんは、何故かひときわボロボロだった)




「いや…でも仲直りって…わたし別に、グリーンと喧嘩したわけじゃ…」




「なんでもいいから、リーダーの機嫌を直してください!」




「このままじゃ、オレらの身がもちません!」




「いや、あのねみんな、」




どうやら、わたしの話は聞き入れてもらえないらしい。唯一壊れてなさそうな矢印パネルの上に、テンくんが容赦なくわたしを突き飛ばした。




「ちょ、」




「それリーダーのとこに直通になってますから!」




「な、なんだとおおおお!!?」




頑張ってください!ってサヨちゃんの声が、段々遠退いて聞こえた。
(遠退いたのは無論、わたしの方なんだけども)




グリーンの破壊活動によって仕組みが変わってしまったらしい矢印パネルは、あれよあれよと言うまにわたしをジムの奥へと運んだ。




奥に行くにつれて壊れっぷりが凄まじいことになっていたけれど、大丈夫なのだろうかこれは。




「おいお前ら!いつまで休憩してるつもり……………」




聞きなれた声が頭上から聞こえて、急に途切れる。




見上げた先にいたのはやっぱりグリーンで、ほんの数日会ってないだけなのに、懐かしくて涙が出そうになった。




「…グリーン、」




「は、なまえ、なん、おま、え、」




日本語になってないよ、グリーン。いつもの自信家で偉そうなあなたはどこに行ったの。




「…えっと…」




「あ、っと…とりあえず、中に来いよ。」




やたらとしどろもどろなグリーンに招かれて、いつも通りの控え室に来たのだった。




―――――そして冒頭に戻る。




「…ジム、ボロボロだったね。」




「…や、まあ…ちょいとやり過ぎた、かもしんねえ…。」




「アキエちゃんたち、泣いてたよ。」




「…今度メシでも奢ってやるか。」




「…ねえグリーン、」




同じソファーに座ってるのに無意味に開いた隙間を埋めるみたいに、ちょっとだけ近寄ってみた。




いつもと同じ、グリーンのいい匂いがわたしに届いて、心臓を直接くすぐる。




「ごめんね、」




「は、何が、」




「わたし、勝手なことばっかり言って困らせたよね。」




だからごめん、って謝ると、グリーンの眉が困ったように垂れ下がる。
(ああ、また困らせちゃった)(違うのに、そんな顔させたいんじゃ、ないのに)




「…なまえ、」




「うん?」




「俺が他の女の子と遊ぶのは、いや?」




「…うん、いやだ。」




考えたくない、そんなこと。それくらいいやで、悲しくて苦しいよ。




「…わたしは、」




グリーンの瞳はまっすぐにわたしを見ている。強い、強い視線、逸らせない。




「グリーンが、すき。」




心臓が熱くて速くて、死んじゃいそうだった。




手のひらがじっとりと汗ばんできて、体が震えて、今にも泣きそうになる。




「…俺も、」




グリーンの長い腕に捕らえられて、胸にぎゅっと顔が押し付けられた。




どくん、どくん、心臓の音が聞こえる。グリーンの体も熱い。




「なまえが、好きだ。」




見上げたグリーンは、いつも通りのグリーンだった。




だけどいつもより、なんだかかっこよく見えるのは、わたしの気のせいなんだろうか。




「…グリーンのばか、」




「はあ?」




「かっこいい、…だいすき。」




「なっ!…お前なあ…」




本当に、恋は盲目とはよく言ったものだ。今はグリーンが何を言っても何をしても、かっこいいと思ってしまうような気がする。




だけど、グリーンの気持ちを知ってしまったわたしは、きっともう彼の気持ちが見えなくて不安になることはないのだろうなと思った。










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