もふり、とブースターのふわふわ毛並みに顔を埋めた。やはり日々のブラッシング効果か、ううむ、気持ちいい。
足元では、自分たちにも構えと言わんばかりに、サンダースとシャワーズがきゅうきゅう鳴いていた。
ああ、可愛いなあ…なんて思いながら、二匹それぞれ頭を撫でてやると、満足したのか丸まって寄り添って寝始める。
(サンダースのちくちくは痛くないのかな)(今度シャワーズに聞いてみよう、うん)
「なまえ、」
「あ、グリーン。お疲れ様。」
「サンキュー、…っと、」
わたしに近寄ってきたグリーンは、足元で眠る二匹に気づいてびっくりしてた。
「…踏んじゃやだよ、グリーン。」
「踏まねーよ、」
その言葉通り、グリーンは少し遠回りをするようにして、わたしの座るソファーに腰を下ろした。
ふわり、香水なのか整髪料か、はたまたもっと他のなにかかもしれない、グリーンからいつも香るいい匂いがする。
「もっとこっち来いよ。」
「…ブースターがいるから、動けない。」
抱きしめていたはずのブースターは、いつの間にかわたしの膝でうとうと睡眠体制である。
炎ポケモンだから体温が高いのだろう、膝だけ心なしか温かい。
「…グリーン、」
「ん?」
「グリーン、」
「どうしたんだよ、なまえ。」
整った顔が、苦笑いするようにそっと歪められる。でもそんな表情でさえかっこいいと思ってしまうのだから、たぶんわたしは相当重症だ。
つきん、つきんと針でつつかれたみたいに、胸が痛くてもやもやする。
「…グリーン、あのね、」
「なんだよ、どうした?」
「…ヤスタカくんから聞いたんだけど、」
「は?何を?」
行き場をなくした手が、ふわふわとブースターの頭を撫でる。
大きなソファーのわたしから一人分くらい離れた位置から、グリーンの息づかいが聞こえる。
「…昨日、可愛いミニスカートの子と、タマムシデパートに行ったんだって?」
「…っ、お前それ、」
誰から聞いたんだよ、と言いたげなグリーンの表情。話始めにヤスタカくんから、って言ったはずなんだけどな。
(そこらへんにはあまり興味がなかったのか、それとも、)
「…すっごく、可愛い子だったって、聞いた。」
「なまえ、それは、」
「やだ、グリーン、やだよ。」
言い訳なんて聞きたくなかった。自分から話を振っといてなんだそれ、ってかんじだけど、でもそれを聞くにはわたしが持ち合わせる勇気じゃ、あまりに足りなかったのだ。
結局わたしは臆病で、ずるいやつなのだ。幼なじみという関係に甘えて、いつも勝手にグリーンに会いに来て、勝手に控え室に居座って。
わたしにはそんなことをする資格なんかないのに、彼の優しさに甘えているのだ。
「…わたし、グリーンが他の誰かといるのはいや。」
「…なまえ…お前それ…」
「いや、だけど、でも…わかってるの、わたしがそんなこと、言っちゃダメだって。」
膝の上にいたブースターが、半分寝ぼけながらわたしの膝から降りて、サンダースとシャワーズに寄り添った。
「…もう、やだよ…グリーンといるの、つらい…。」
言葉は棘みたいに鋭くなって、ちくちくわたしに刺さる。違うのに、本当はこんなこと、言いたいんじゃないのに。
ただ好きだって、グリーンの隣にいたいって言えたら、どれだけ楽なのだろうか。
サンダースに寄り添って寝るより遥かに痛む胸は、グリーンの頭がツンツンしてるのとはきっと関係ないのだろう。
恋心、ちくり