※ちょっと後味の悪いおはなし


「―――――っう、げほっ、」




揺れた水面が、わたしの口から吐き出されたものによって淀んだ色に変わる。




胃のあたりが嫌な音を立てて、更に吐き気を促すのがわかる。




「う、あっ…は、おえっ…」




ばちゃばちゃと激しい水音、狂ったみたいに排出される嘔吐物は、容赦なく水を汚していく。




胃も食道も焼けたみたいに熱くて痛い、痛いのに吐き気は止まらない。もうきっと、吐くものなんて残ってはいないのに。




「―――――っは!あ…ぐっ、」




喉が奇妙な音を鳴らして、胃から中身を絞り出そうとする。




息をするのもやっと、苦しい、苦しいよ。




「ふ…はっ、う…」




視界に滲んだ涙が、俯いているせいで鼻先に向かって流れて、そのまま落ちる。




涙を拭おうと、ひどく重く感じる腕をのろのろと持ち上げると、それを誰かに掴まれた。




「―――――なまえ、」




「は…っ、れ、いっ…」




振り向くことはかなわなかった、だけど聞こえた声は確かにレイのもの。




ふわり、背後から包まれるみたいに覆い被さられて、レイの手が水を流すためのレバーを引いた。




汚れた水が、流されていく。透明なきれいな水に押し流されて、跡形もなく。




「…わたし、みたいっ…」




「…なまえ?」




どれだけ頑張っても、きれいなものにはかなわない、抗えない。まるでわたしみたい。




何もできないまま押し流されて、どこへともわからない場所へ行ってしまう。




―――――汚れた、ままで。




「きれいには、なれないの…勝てないよ、わたしっ…」




「………………………」




レイが体重を乗せたのか、背中にかかる重みが増して、吐き気が再び蘇ってくる。




「―――――ぐ、えうっ、」




口からだらしなくこぼれる、胃液と嘔吐物の混じったそれ。




「…は、うくっ、あ…っ」




「…見ろよなまえ、」




レイの手がわたしの髪を強く掴んで、水面へと近づける。




自分の体内から出てきたものと透明な水が混ざりあって、醜いマーブル模様を作り上げている。




「きれいなものは、簡単に汚れるんだ。」




「―――――れ、い…っ」




「そうだろ?」




何故だかレイの声は、ひどく楽しそうだった。













Title by:透徹

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