みんなが泣いていた。あいつが横たわるベッドの横で嘆き、悲しむ。
俺にはよくわからなかった。何故やつらは嘆く、悲しむ、何をそんなに、やつらは。
「…ゆー、り、」
あいつのものとは思えないほどか細く弱々しい声が、酸素マスクを通過して部屋に溶ける。
青白く染まった頬が歪み、色を失った唇が弧を描いた。
「…なまえ、」
名前を呼んでやれば、あいつは薄く開いた瞳から、涙をすうっと溢した。
掛け布団の上に無造作に投げ出された手が震えていて、そこでようやくこいつが腕を上げることさえできないのだと気づいた。
「…ゆー、り…」
震える手を握るとひどく冷たくて、まるでロシアの大地に降り積もった雪に触れているようだった。
「…なまえっ…」
どうしてだ、どうしてお前はこうなった。
俺の隣でバカみたいに笑っていたお前はどこに行った?お前の笑顔はどこへ消えた?
一体何が、お前をそうさせているんだ。
「なまえ…」
「…ゆー、り…わ、たし…」
なまえの震えは止まらない、目尻からこぼれる涙も、それと同じように。
「…こ、ろ…して、」
「…何、だと?」
「おわり、にしたい…おねがい、ゆーり…」
脳髄がぐらりと揺れている、なまえが何を言っているのか理解が及ばない。
血液が異常な速さで体内を廻り、手足の先が痺れたように感覚を失っていく。
虚ろななまえの瞳は、もう俺を映してはいなかった。
「…ね、おねがい…」
何も考えられない、何もわからない。
俺は誰だ、こいつは誰だ、俺は何をしてる、こいつは何なんだ、俺は、こいつは、一体。
狂っていく思考回路の中、視界の端になまえの手がゆっくり動いたのを捉える。
「…こ、れを…」
腕に刺さった針は、管を通して液体の袋に繋がっている。
ぽちゃり、とそれが揺れて、なまえの手が俺の手を掴んだ。
「…なまえ…?」
ゆっくり、ゆっくり、なまえの手が導いた先には、酸素マスクに繋がった酸素供給用のチューブ。
反対の手は、点滴に繋がれた管に、
「ゆー、り、」
俺の名を呼びながら、なまえはそっと微笑む。
ああ、そうか、これを抜けばいいんだな?
待ってろなまえ、俺が今すぐに、
ピ――――――
さよならの機械音