白い布地をマチ針で留めて、チャコペンで縫う部分に印を描く。仮縫いはいらないかなー、なんて考えながら、白い糸を通してある縫い針を針山から抜いた。




「なーにやってんだよ、ウサ子。」




「うひゃうっ、」




頭の上にこつんと何かが乗っかる感触、視界の端に見えるしましまの服には、なんだかとっても見覚えがある。ひょいっと頭を上に向けると、わたしの頭上から手元を覗き込んでいる芭蕉先輩がいた。




「せんぱい、」




「まーたぬいぐるみかよ?」




「はい、今回はシロクマくんです。」




まだ平たい布地の、シロクマくんになる予定のそれを、芭蕉先輩に見せるように軽く持ち上げる。かり、と棒付き飴を齧りながら、芭蕉先輩はその白い布地に目をやった。




「つーかお前、アレは?」




「…はい?」




「ウサ子のウサ子、アレどーしたんだよ?」




「…ああ、あのウサちゃんなら、うちにいますよ。」




ウサ子のウサ子、というのは、芭蕉先輩と出会った頃にわたしが作っていたウサギちゃんのぬいぐるみのことだ。そのウサちゃんがきっかけで芭蕉先輩と親しくなったので、先輩にとっては未だにわたし=あのウサちゃんの印象が強いらしい。




「まだあの子に綿詰めする前でしたもんねえ、芭蕉先輩に初めて会ったの。」




「あー?」




当時のことをほわほわと思い返すわたしに対し、芭蕉先輩は生返事。自分からウサちゃんの話を持ち出したのに。




わがままで、子供っぽくて、わたしの気持ちなんかお構いなしで、いっつも自分のしたいようにしかしない先輩。だけどやっぱり、好きだなあって思う。わたしは先輩の、他でもないそうゆうところに惹かれているから。




「…先輩、」




「あー?」




「大好きです、とっても。」




先輩の方を振り返って、華奢な肩に腕を掛けて抱きつく。もちろん危ないから、針とシロクマくんの元には机の上でお留守番してもらった。




「…バッカじゃねーの。」




「バカでもいいですよ、だって好きなんですもん。」




「マジお前、頭おかしいんじゃね?」




嫌味を言いながら、先輩は笑ってた。喜んでくれてる、のかな?そうだったら嬉しい。




「先輩、先輩、」




「あ?」




「先輩は、わたしのこと好きですか?」




「…知るかバーカ。」




咥えていた飴を手で持って、空いた口をわたしの口にくっつけた先輩。触れたそこからは、甘い甘い飴の味がした。















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