「おいウサ子、帰んぞー。」
「芭蕉先輩っ、お疲れ様です。」
放課後の教室、作りかけのビーズマスコットをその場に置いて、部活終わりに迎えに来てくれた芭蕉先輩に駆け寄る。ハードな練習の後で疲れてるはずなのに、いつもわたしと一緒に帰ってくれる芭蕉先輩。そんなところも、本当に大好き。
(惚気?ええ、そうですが何か)
ボーダーの服を身に纏った細身の体に、ぎゅっと抱きつく。汗をあんまりかかないのか、練習後にもかかわらず、いつも通りのいい匂いがした。
「先輩先輩、大好きですっ。」
「…わかったから、帰んぞ。」
頭をぐしゃぐしゃに撫でられて、体がぺりっと剥がされる。ちょっと名残惜しいけど、仕方ない。芭蕉先輩から離れると、自分のカバンを手に取って、作りかけのビーズマスコットをしまう。
「…今度は何作ってんだよ。」
「え?…ああ、ビーズでトラさんを作ってるんですよ。」
出来たら見せますね、って言うと、ん、って短い返事が返ってくる。それでもわたしには肯定の意がちゃんと伝わってるから、不満なんか何一つない。
小走りで先輩の横に並んで、長い腕に自分の腕を絡ませた。帰る時はいつもこうするから慣れたのか、芭蕉先輩はそのまま歩き出す。
「…あ、先輩。」
「なんだよ。」
「今日わたしスーパーに用事あるんで、家まで送ってくれなくて大丈夫ですよ。」
「は?スーパー?」
「はい。今日ママが夜勤で、一人でご飯しなくちゃいけないんですけど、今朝見たら冷蔵庫空っぽだったんです。だから何か食材買わなきゃいけなくて。」
「じゃあお前、今日家に一人かよ?」
「はい、まあそうなりますね。」
わたしの家は所謂母子家庭というやつで、ママは看護師をしている。そのため家を空けることも多く、幼い頃から一人で留守番をすることも多かったため、もうそんなのは慣れっこだ。寂しい気持ちもあるけど、ママは仕事が好きって言ってるし、わたしを女手一つで育てるために頑張って働いてくれている。だからわたしも、できる限り家事は手伝って、ママを支えなくちゃって思う。
「慣れてるんで大丈夫ですよ。お料理だって、手の込んだ物じゃなければ作れますし。」
「………………………」
「芭蕉先輩?」
何か考え込むみたいに、立ち止まってしまった芭蕉先輩。珍しい、先輩がこんな風になること、あんまりないのに。
(レアだねレア、ちょっと可愛いし)
「…ウサ子、」
「え、あ、はい。」
「…今日、お前ん家泊まる。」
「…へっ?」
「明日土曜だし、部活ねーし。」
いや、まあたしかに明日は学校お休みだし、先輩の部活も休みらしいし、お泊まりにはピッタリだけども。うちはまあ、ママはあんまりうるさく言わない人だからいいだろうけど、芭蕉先輩のお家は大丈夫なんだろうか。
「いいん、ですか?」
「別に、大丈夫だろ。」
「ーーーーーっ、嬉しいです!今日も明日も、先輩と一緒にいれるんですよね?バイバイして、家に帰ってから会いたいなーなんて思わなくてもいいんですね?」
「…うるせーな、ウサ子のくせに。」
「先輩っ、早く帰りましょ!あ、その前にスーパー寄ってー…晩ご飯何がいいですか?先輩の好きなもの作ります!」
「わかったから、引っ張んなっつの。」
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