今日はついに、待ちに待った週末!…ということで、わたしは剣道部の選抜メンバーの人たちと一緒に、区民体育館に来ました!
「楓ちゃん、今日は三人だけなの?」
わたしのお隣にいる、剣道部マネージャーの楓ちゃんに聞くと、彼女はきれいな瞳で、眼鏡越しにわたしを見た。…うん、女のわたしから見ても、知的な美人さんだ。
「…ええ、そうよ。」
「馬空さんから、無意味に手の内を明かすものじゃない、と言われているからね。」
わたしの問いに楓ちゃんだけじゃなく、護国先輩が言葉を付け足すようにして答えてくれた。…わたしは運動苦手だから運動部に入ったことないけど、どこもそうゆうものなのかな?
「ウサ子ー、キョロキョロしてはぐれんなよー。」
「はあーいっ。」
前方から振り返るようにして、わたしに声をかけてくれた芭蕉先輩。気にしてもらえたのがなんだか嬉しくて、先輩の隣に寄り添うみたいに、ぴたっとくっついてみた。
「先輩、先輩、今日は頑張ってくださいね!」
「あ?まだ試合するなんて決まってねーしっ。」
「へ?そうなんですか?」
「白零の奴らが、試合する価値もねーような連中かもしれねーじゃん?」
「…はあ…」
なんだか難しくて、よくわからない。だけどさっき護国先輩が言ってた、無意味に手の内を明かさないっていうのと関係してるんだろうか。
「おい、何だこれは!」
「…ふえ?」
知らない人の声がして、思わずそっちを見やる。そこにはスーツを着た眼鏡の男の人と、真っ白な道着を着た人たちがいた。…この人たちが、白零高校、さん?
「今日は練習試合だっていうのに、君たちは何故これだけなんだ!?」
どうやら、こっちの人数が少ないことに向こうが怒っているらしい。…たしかに、向こうには道着を着た人が何人もいるけど、こっちはたった三人だ。
「楓ちゃん、楓ちゃん、」
「…何?」
「剣道って、本当は何人でやるものなの?」
護国先輩たちが向こうの人たちと話してる間に、こっそり楓ちゃんに耳打ちして聞いてみる。…実はわたし、剣道のことほとんど何も知らないんだよね。
(竹刀で戦うってことくらいしかわかんないの)
「…団体戦は、正式には五人よ。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将とあって、先鋒同士、次鋒同士でそれぞれ試合をする。当たり前だけど、団体としての勝敗は、勝った人数が多い方の勝ちよ。」
「…楓ちゃんごめん、よくわからなかった。」
ダメだ、わたしには難しすぎる。楓ちゃん、よくそんなこと覚えられるよね。
(こうゆうのが覚えられないから、わたしマネージャーになれないんだよね)
「おい、ウサ子。」
「ひゃ、いっ。」
「早くしねーと、置いてく。」
「ま、待ってくださいよ!」
とことこと芭蕉先輩の後ろにくっついて歩くと、白零の奴らつまんねー、って先輩がぼやく声が聞こえた。
(わたしが楓ちゃんと話してる間に、何かあったみたいだ)
「…ねえ、せんぱ…」
とりあえず先輩に声をかけようとすると、わたしたちが向かっている方向から、別の集団が歩いてくるのが見えた。さっきの人たちとは違う道着を着ているから、違うチームの人たちだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えていると、芭蕉先輩の足が、その人たちとすれ違った後にぴたりと止まる。わたしも何故か、それに合わせて足を止めてしまう。
「…あ、桜夏…だっけ?」
今しがたすれ違った人たちが、芭蕉先輩を睨むように見る。…桜夏高校、聞いたことはある。剣道が強いのかどうかは知らないけど。
「ごくろーさん、勝てもしないのにこんなとこまで。」
「……………………」
小馬鹿にしたように、芭蕉先輩は言う。格下、なのかな、桜夏高校。わたしにはよくわからないけど。
「…何か言いたげだね?芽雨。」
「え?…いえ、そんなことないですよ。」
護国先輩に言われて、再び芭蕉先輩に目をやる。ルールとかは知らないけど、落陽の剣道部が強いことは知ってるし、一軍レギュラーの芭蕉先輩がすごく強いのも知ってる。
普通はこんなことを好きな人が言ったら、怒ったりするものかもしれない。でも芭蕉先輩は口だけじゃない、ちゃんとした強さを持っているから、こうゆうことが言えるんだって、わたしは知ってるから。
「…わたしは、ああいう芭蕉先輩を好きになったんですから。」
「…そうか。」
その後、芭蕉先輩と桜夏の男の子たちが揉めて、護国先輩がそれを諌めてから、わたしたちは体育館の二階に向かった。
…初めて見る剣道の試合、一体どんなものだろう。
わがままさえ愛しい