別に何か変なことを考えてたわけじゃないの、ただほんとに、不意にそんな気分になっちゃっただけ。
深い意味なんてなかったし、そうしたかったからしただけのことだったんだけど、そのせいで今アリババくんはひどく動揺しているみたいだった。
「ちょ、リセお前っ…!」
「…あったかい、」
ぎゅう、とさっきより少しだけ腕の力を強めてみる。ほどよく筋肉のついている鍛え上げられた体は、抱き心地としては微妙なところ。
アラジンを抱きしめた時は、たしかもっと柔らかくて気持ちよかったはず。
「んー…」
「おいリセ?なあ、ちょっと?」
でも不思議だ、抱き心地は決してよくないのに、なんとなく心があったかくて満たされていく感じがする。
アラジンの時もモルちゃんの時もこうはならなかった、とするとアリババくんだけなのだろうか。
「…ねえアリババくん、」
「うおっ、な、なんだよ?」
「アリババくんだけ、違うの。」
「は、っ?」
「アリババくんは気持ちよくないのに、なんだか嬉しくてふわふわするの。離したくないって思う、…どうしてかな?」
アラジンやモルちゃんにはない特別な何かを、アリババくんは持っているのだろうか。あまりそうは見えないんだけど。
不思議、不思議、なんでこんな気持ちになるんだろう。
「リセ…お前…」
「うん?」
「いや…とりあえず、一旦離れてくれ。」
背後からお腹に回っていたわたしの腕を、やんわりと外すアリババくん。
心臓のあたりがきゅうってして、ちょっとだけ寂しくて切なかった。
(やっぱりわたし、離れたくなかったんだ、なあ)
「…リセ、」
「なあに?」
わたしの方に向き直ったアリババくんの顔は真っ赤、視線は気まずそうにあっちこっち泳いでいる。
「あー…その…」
「…………………」
煮え切らない態度、たぶん言いたいことがあるんだと思うけど、なかなか言い出せないみたい。
(まあなんたってアリババくんだもんね)
でもわたしだって、そんなに気が長い方じゃないんだ。ねえアリババくん、もう待てないよ。
「―――――ばか、ヘタレ。」
「へ?…うわっ!」
うじうじしてるアリババくんを、今度は正面から抱きしめてやった。狼狽えてちょっとバランスを崩してたけど、なんとか踏みとどまる。
(日々の鍛練の賜物だろうか、うん)
「ちょ、リセっ、」
「…アリババくんは、いや?」
わたしがこうするの、と言って、今度は体をぴったりくっつけてみる。
(おわっ、て間抜けな声が、頭上から聞こえた)
アリババくんはあったかい、なんだろう、わたし今幸せだ。
「いや、じゃねーけどっ…!」
「…だったら、アリババくんもぎゅってしてよ。」
「―――――っ!」
どくん、わたしの体に伝わるくらいに、アリババくんの心臓が大きく脈打った。
…本当に、こーゆうの慣れてない、んだなあ。
「…っ、リセ…」
中途半端に浮かせた両腕は情けないくらいに震えて、わたしの体まわりをふわふわさ迷う。
「…アリババくん、」
顔を上げて名前を呼んでみると、決心したように腕が背中に回されて抱きしめられる。
アリババくんのぬくもりが一層感じられて、すごくドキドキする。だけどやっぱり嬉しくてたまらないんだ。
「…アリババくん、もっと。」
彼に触れているとこんなにも心地いい、離れてしまうのがいやになるくらいに。
別々の体があることさえもどかしくて、いっそもうアリババくんと一つになれたら、なんて考えるわたしは、相当重症なのかもしれない。
あふれるたいおん