自分の体を抱くようにして、肩にかけた羽織の合わせ部分をぎゅっと握りしめる。
冷たい空気に体は震えて、露出している肌が痛みさえ訴えているのがわかった。
「…寒いのか、」
隣にいるマスルールは、平然とした表情でわたしを見る。同じ寒さの中にいるはずなのに、彼は寒くないのだろうか。それとも、マスルールとわたしが感じてる気温は違うのだろうか。…いや、そんなはずはないんだけど。
「ん…マスルールは寒くないの?」
「…これぐらいの寒さなら、まだ平気だ。」
あっけらかんとして言うマスルールは、特にやせ我慢をしているわけでもなさそう。この寒さの中、まだ平気なんて言えてしまうなんて、わたしとは体の作りさえ違うんじゃないだろうか。
「…いいなあ、」
思ったことがつい口から漏れてしまって、はっと手で抑える。そんなことをしたって、もう言ってしまった後だし、耳のいいマスルールには聞こえているだろうから、全く意味なんかないんだけれど。
「…何が、いいんだ。」
「えっと…あの、わたしは寒いのにマスルールは寒くないなんて、羨ましいなあって…。」
「……………………………」
誤魔化すなんて出来ないから、仕方なく正直に思っていたことを話す。マスルールは案の定というか、表情を変えることなくわたしをじっと見つめてきた。
「どうすれば、いい。」
「へ?」
「俺は寒くないが、お前は寒い。俺はお前に、何をしてやったらいい。」
「…え…と、それは…」
これは困った、別に何かしてほしかったわけじゃないし、マスルールが気にするなんて思いもしなかった。…悪いこと、したかなあ。
「えっと、大丈夫、だよ。寒いけど、平気だから。」
少しだけたどたどしくなりながら、言葉を選んでマスルールに伝える。ちょっと寒いと思ってそれを口に出してしまったことで、こんな風に気をつかって、更に気をつかわれるなんて予想外だったけれど。
「…フロラ、」
「うん?」
ふわ、と温かい何かがわたしに覆い被さる。マスルールの匂い、背中に感じるぬくもり、後ろから伸びている逞しい腕。背後から抱きしめられてる、って気づくのに、必要以上の時間がかかった。
「…マスルール?」
「…こうすれば、少しは温かいか?」
わたしの体を簡単に包み込んでしまうマスルール、冷たい空気から守られているみたいな姿勢は、わたしの心と体の両方を温めてくれた。
「…あったかい、マスルール。」
「…そうか。」
そのままの体勢で、もたれ掛かるみたいにマスルールに体を預ける。しっかりと抱きとめてくれる腕と体のおかげで、バランスを崩すことなく彼の腕の中にいられた。
「フロラ、」
「なぁに?」
「…お前も、温かい。」
頭にこつ、と軽い刺激。よく見えないけど、たぶんマスルールの頭がわたしの頭に乗っかった、んだろう。
「…マスルールが、いるからだよ。」
お互いの体温を分け合って温まるこの時間は、なんて幸せなんだろう。できることなら、ずっとこの腕の中にいたい。マスルールを温めるのも、マスルールに温められるのも、わたしでありたい。
冷たい澄んだ空気に輝く夜空に、願いをかけるように目を閉じて、マスルールのぬくもりに甘えた。
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