はっきり言ってしまえば、顔も中身もまったくタイプじゃない。わたしは本当は、もっと男らしくて強くて、しっかりした人が好きなんだ。今まで好きになった人も惹かれた人も、実際そんなカンジだったから。




だけど気づいたらわたしの思考を占めていて、わたしの視界に映っているのは、紛れもない彼なんだ。きっかけなんて忘れたけど、いつの間にやらわたしは彼に心を奪われてしまったらしい。




「んー…」




首を捻って穴が空きそうなくらい見つめてみても、目の前のアリババくんは何も変わらない、アリババくんのまんまだ。まあ当然といえば当然なんだけど。




「…なんでアリババくんだったのかなあ、」




自分の中で燻っていた疑問を、ぽろりとこぼしてみる。そしたらアリババくんは、わたし以上に不思議そうにしながら、まっすぐにこちらを見る。強い目だ、と思った。アリババくんの目はいつもまっすぐで、見つめられると何だか痛い。




「いや、それ俺に聞くか?普通。」




「…だって、」




じゃあアリババくんじゃなかったら、誰に聞けばいいの。誰だったら教えてくれる?この疑問の答えは、どうすれば見つかるの?




「まさか、自分がアリババくんを好きになるなんて、思わなかったから。」




「…ちょっとリセさん、俺傷つくんですけど。」




「だって本当のことだもん、アリババくんみたいな人、全然タイプじゃないし。」




キラキラした金の髪、ぱっちりした目、そこそこ高い鼻に柔らかそうな唇。たぶん顔立ちは整っていると思う、だけど顔が好きかと問われればそうじゃないし、背だって高くはない。ましてや性格なんかヘタレだし女好きだし、一体彼の何がこんなにわたしを惹きつけるのだろうか。わからない、わからないことだらけだ。




「…ねえ、アリババくん、」




だけど、こんなわたしでも、はっきりわかっていることが二つある。




「だいすき。」




それは、わたしがアリババくんをちゃんと好きだってことと、アリババくんを好きになったのが間違いなんかじゃないってこと。




「だいすきだよ。」




全然タイプじゃないし、いいとこよりも悪いとこの方が沢山言えてしまう。それでもやっぱりアリババくんが好き、なんだと思う。目が離せなくて、どこにも行かないでほしいって思う。ずっと一緒にいたいって思う。これだけがわたしの中の確かなものだから。




「…っ、お、前…なあ…」




途切れ途切れに、頭を掻きながらアリババくんは呟く。その顔は赤い、まるで熟れたリンゴみたいだ。




「なんでそーゆうことばっか、言うんだよ…。」




「…アリババくん?」




きょと、と目を瞬かせると、アリババくんの体がわたしの体を包む。あったかい、心臓がどくどく鳴っているのが聞こえる。アリババくんがいつも以上に近くて、わたしもドキドキする。




「…アリババくん、」




「…リセ、」




背中にぎゅうっと腕が押し付けられて、わたしの体はさらにアリババくんに密着する。胸にアリババくんの鼓動が伝わって、きっとわたしの鼓動もアリババくんに伝わって、なんだか一つになったみたいだ。




「…俺だって、」




「うん?」




「お前が、大好きだっ…!」




吐き捨てるみたいにそう言ったアリババくんの表情は、わたしからは見えない。だけどその腕が震えてて、やっぱりヘタレだなあと心中で苦笑する。




全然タイプじゃないし、いいとこより悪いとこの方が沢山言えてしまうようなヘタレな彼だけど、それがわたしの好きになったアリババくんなんだから、これはこれでアリなのかな、なんて思った。まあ絶対言ってやらないけどね。











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