人間の体に於いて、最も柔らかい部分はどこでしょうか。胸?頬?二の腕?太もも?耳たぶ?
どこも違うんじゃないかとわたしは思うのです、人の一番柔らかいところ、それは、
「腹じゃねーの?お前の場合。」
「ぶん殴りますよ、ジュダルくん。」
手をぐーにしてジュダルくんに振りかざしてみても、んなちっせー手じゃ痛くねーよ!ってケラケラ笑わました。そしてその手をそのまま上から握られて、く、屈辱です…。
「大体よー、お前なんか全身どこもかしこもふにふにしてんじゃん。」
「わ、わたしそんなに太ってないですよ!」
失礼な!と怒ってみても、怖くねー!って笑いっぱなしのジュダルくん。な、何がそんなに面白いのでしょう。
「というか、ジュダルくんがわたしの何を知ってるんですか。全身柔らかいって…触ったこともないくせに。」
「ん?俺が知ってんのは、とりあえず名前だろー、魔力の量だろー、身体能力だろー。」
「思いっきり関係ないですよねそれ。」
「…あぁ、あと―――――」
くい、と指で顎を持ち上げられる。ジュダルくんの瞳がまっすぐにわたしを映して、あれ、段々近づいて、
「…ん、」
くちびるが、ジュダルくんのそれとくっついて、すぐに離れました。
(い、い、今のって…今のって!?)
「俺のこと好きで好きで仕方ねーこととか、」
唖然、とはこのことでしょうか。口が開いたまま塞がってくれません。そしてなんだか、とっても頬が熱いです。
「じ、ジュダルく、なに、なん、いまっ、」
「ふはっ、お前ちょーブッサイク!」
「ぶ、ぶさいく!?」
なんということでしょう、人の唇を盗んだ挙げ句、わたしに向かってぶさいくだなんて!
(この人は失礼さの塊です!鬼です!悪魔です!)
「ひ、ひどいですっ、ジュダルくんっ、」
「あ?何が?」
「わ、わたしっ、ファーストキス…」
「いーじゃん、お前俺のこと好きだろ?」
「なっ…」
そんなことない!って普通なら否定しなきゃいけないのでしょう。だけどわたしはそんなことできません、だって、その、
「…意地悪、です。」
「何言ってんだよ、俺にイジメられんの好きなくせに。」
「うぅっ…」
わたしがジュダルくんを好きなのは、変えようのない事実、なんですもん。
(我ながら、こんな人のどこがいいんでしょうか)
「こっち見ろよ。」
「むゅ、」
ほっぺたをぐにっと挟まれて、ジュダルさんの顔がまた近づいてくる。
(ああ、端整なお顔立ち…って、そんなこと思ってる場合じゃないですよ!)
「俺のこと好きって言えたら、もっかいキスしてやるよ。」
「ぅむ、」
そう言ってぱっと手が離され、代わりにおでこがおでこにコツンとぶつかる。
(ち、近いです、とっても)
「…ジュダルくん…」
「ん?」
「好き、です…ジュダルくんのこと。」
「ふーん。」
「ふーんって!な、なんですかその生返事…んぅっ、」
黙れ、と言わんばかりに、また唇を盗まれた。わたしのに触れたジュダルくんのそれは、柔らかくてあったかくて、思わず息が止まってしまう。
「…やっぱ訂正、」
「う、ぇ?」
「一番柔らけーとこ、腹じゃねーわ。」
「ふ、んっ、」
強引なジュダルくんのキスが何度も何度も降ってくる。呼吸を奪われてるみたいで、苦しい…。
「は、うっ、」
「お前のここ、まじ柔らけー。」
親指で唇をこじ開けられて、弄ぶみたいに下唇をふにふに摘ままれた。
―――――それからしばらく、何度もキスしたり、唇をいじり回されたのは、わたしとジュダルくんの秘密です。
リリカル・リップス
2012.1101~1130 拍手御礼文