※自傷表現、エグいグロ表現アリ




ぎらぎらと鈍い色で光る短刀を握りしめて、白い自分の腕に突き立てる。ぶつ、と何かを貫いた時特有の感覚が伝わって、一瞬遅れてから痛みがやってきた。刺さっている部分が熱くなって、どくんどくんとうるさく脈打ち出す。痛みを無視して短刀を引き抜くと、赤い血がだらだら傷口から溢れてきた。赤い、赤い、嬉しくなってまた別の箇所を短刀で突き刺す。引き抜く、赤い、嬉しい、また刺す、引き抜く、赤い、嬉しい、また刺す、引き抜く、赤い、赤い赤い赤い赤い赤い。




「…っふ、」




赤い血液に興奮したわたしは、思わず笑みをこぼしていた。嬉しい、楽しい、血、赤い、赤い血、わたしの。頭の中を赤色と喜びだけが埋め尽くしていく。




「…何してんの?」




ずん、とわたしの体にのしかかるみたいに、重く響いた声。振り返れば、腰に手を当てながら、呆れたようにわたしを見つめる紅覇と目が合う。さっきからずっとそこにいたのに、まるで今来て、思いがけずこの光景を見てしまったかのような口ぶりだった。




「…紅覇、」




「床汚さないでくれる?血ってなかなか取れないんだよねぇ。」




早足で歩み寄って来た紅覇は、血まみれのわたしの腕をぐいっと引っ張った。溢れ出る血が重力に従うように、肩の方へ腕を伝って流れて、衣服をじわりと赤く染める。




あれ、今の今まであんなに気分がよかったのに、なんだか悲しい。どうしてだろう、おかしいな。




「こうは、」




「死にたいなら僕に言えよ、いつでも殺してやるからさぁ。」




「………………………」




ぎり、とわたしの腕を掴んでいる手の力が強められる。血液は止めどなく流れ出てるのに、血の巡りが止まった気がしてくらくらした。




どうしたらいいのかわからずに、紅覇の澄んだ瞳を見つめる。お前は愚かだと言わんばかりの冷たい眼差しが痛かった。血まみれでぐちゃぐちゃの腕なんかより、ずっとずっと。それに呼応するように、胸もぴりぴり痛み出す。




わたしを見下ろす紅覇の姿が水に沈んだみたいに揺らいで、頬に生ぬるい温度が流れた。




「…なんで泣くんだよ、」




「…っ、」




紅覇に言われてようやく気づいた、ああなんだ、わたしは泣いてるのか。じゃあ目から落ちるこの雫は涙なんだね。本来なら泣いて取り乱しているはずの頭は、自分でも驚くほどに冷静だった。




「セレネ、」




「…ち、がうの、紅覇…。」




唇が勝手に動いて、紅覇の呼びかけに答えることなく、言葉を紡いでいく。




「死にたい、んじゃない…わたし…」




「……………………」




「ただ…血が出ると嬉しくて…それで…」




「…本当にバカだね、お前は。」




冷たかった紅覇の瞳から色が抜けて、ゆっくり腕を解放される。血はまだ止まらない。足元には、わたしが作った小さな血溜りができていた。それを踏みつけた紅覇。ぴちゃ、と音がなって、血が跳ねる。




「セレネ、」




紅覇の声は、優しかった。涙が止まらない。わたしは本当は、どうしたかったんだろう。




「おいで、」




広げられた両腕、ぽっかり空いた胸元。そこに飛び込むように、体を紅覇にくっつけた。あったかい、紅覇の体。そのまま抱きしめるみたいに、両腕で捕らえられた。




「紅覇っ…。」




「死にたくもないくせに、そーゆうことするのやめなよ。血が見たいだけなら、その辺にいる邪魔な奴ら殺っちゃえばいーじゃん。」




「…違う、の。自分の血が出るのがよくて…他の人のは、嬉しくない…。」




「ふうん?」




目をまんまるくして、醜く泣いてるわたしをそれに映す紅覇。少しだけ間を置いてから、よくわかんないや、なんて無邪気に笑った。




「僕だったら絶対、そんなことしないけどなぁ。なんか痛そうだし。」




「…痛いより、嬉しいが強いから、痛くないの。嬉しくて嬉しくて、仕方ない。」




「…へえ、痛くないの?」




紅覇の表情が不思議そうに歪んで、ちらりと血まみれの腕を見る。わたしを捕らえていた紅覇の腕が片方だけ動いて、わたしの血まみれの腕を再び掴む。




ちょうど傷のところに指が当たったのだろう、じくりと疼くみたいに鈍く痛んだ。




「い、たっ…。」




「痛い?セレネ。」




「…い、たいよ、紅覇。」




焼けたみたいに傷口が熱い。紅覇はそれを知りながら、さらに深く指を食い込ませてくる。肉を抉られる、生々しい感覚が伝わってくる。




「っう、あ…」




「痛いだろ?ちゃんと血も出てるけど、今嬉しい?」




びりびり痺れるみたいな痛みを堪えながら、首を思いっきり横に振る。血が出てるのは、傷口から伝わる感覚でわかる。だけど喜んでられない、それくらい痛い。皮膚のさらに下の肉を抉られているんだから、当然といえば当然かもしれないけど。




「痛い、紅覇…痛いよ…。」




「その痛み、忘れちゃダメだからね。」




にっこり笑った紅覇は、わたしの腕から手を離す。その指先は、わたしが流した血の赤で染まっていた。




「紅覇…っ。」




「自分の血を見るより、僕に痛めつけられた方が嬉しいだろ?」




瞳に狂気の色を宿しながら、紅覇は指先についたわたしの血を舐めた。











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