隅っこは好き、人の目が届きにくいし、自分が小さな人間だって思えるから。真ん中は嫌い、人にたくさん見られるし、小さな自分じゃいられなくなるから。人が怖い、人の目が怖い、わたしはわたしでいることが怖い。わたしなんていなくなっちゃえばいいのに。




「どうして?」




きれいなピンクの髪が揺れて、まんまるい二つの目に見つめられる。部屋の隅に座り込むわたしに目線を合わせるように、しゃがみこんだ紅覇のそれは、本当はこんな隅じゃなくて、真ん中が似合うきれいなもの。




「お前はお前だろ?何も怖いことなんかないよ。」




「…紅覇は皇子さまだから、そんなことが言えるんだよ。わたしは、違う。」




生まれたばかりの、記憶なんてほとんどないくらいの時期に捨てられて、街の片隅にぼろ雑巾のように蹲って生きていたわたし。死にかけの汚い命を拾ってくれたのが紅覇で、生きる意味も居場所も全部紅覇がくれた。




見た目はお世辞にも華やかとは言えない、体つきだってあまり女らしくない、賢くもないし身体能力だって普通。そんな何一つ秀でた部分のないわたしに、紅覇は笑って手を差し伸べてくれたのだ。同じように死にかけている人の中にはきっと、もっと美しく、紅覇の役に立てるような人がいただろうに。




「ねえセレネ、」




「…なに…」




曇りのないまっすぐな瞳の中に、わたしが揺らいでいる。紅覇の瞳はきれいなのに、そこに映るわたしは汚い。




「お前を拾ったのは、誰だっけ?」




「…そ、んなの…」




どうして今さらそんなことを聞くんだろう、あの時紅覇が拾ってくれたから、わたしは今ここにいるのに。




「紅覇に、決まってる…。」




「そうだよねぇ、じゃあお前は、誰のために生きてるの?」




「…紅覇のため…」




彼の問いにわたしは迷いなく答える。だって当然だ、紅覇に救われた命なのだから、紅覇のために生きて、紅覇のために死ぬのが当たり前。ずっとそう思って生きてきた。




「なぁんだ、ちゃんとわかってるんじゃん。」




ふにゃっと表情を崩して、可愛らしく微笑む、わたしの世界の中心にいる人。拾われたあの時みたいに、男の人にしては華奢できれいな手が、そっと差し出される。




「お前は僕のものなんだから、僕と一緒に真ん中にいなきゃダメだよ。」




脳内に、初めて紅覇に会った日のことが鮮やかにフラッシュバックする。おいで、って差し伸べられた手。何もなかったわたしの世界に飛び込むように入ってきた、練紅覇という存在。あの手を取った瞬間、周りの景色がきらきらと輝きだしたのを、今でもはっきり覚えている。




もちろん目の前にいる紅覇は、あの時よりずっと大人になっているし、わたしだってそれは同じ。だけどわたしを導いてくれるその手は、きれいな世界をくれたその優しさは、あの頃と何も変わらないまま。汚かったわたしの命をこんなにもきれいに輝かせてくれたのは、他でもないこの人なのだ。




「誰に見られようが、関係ないじゃん?お前は僕のために生きてるんだからさぁ。」




「…紅覇、」




「他人の目なんか気にしないで、僕の一番近くにいなよ。」




隅っこが好きだった、なんとなく、そこがわたしのいるべき場所のような気がしていたから。真ん中が嫌いだった、わたしみたいな人間がいるべきではないと思ってたから。




でもあの日のように紅覇の手を取って、紅覇と一緒に真ん中にいられるなら、それは隅っこに一人でいるより、とっても魅力的な話だと思った。













Title by:エバーラスティングブルー

×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -