わたしがどんな性格かまわりの人に訊ねると、みんな大体口を揃えてこう言う。"素直"な子だよねって。
でも本当に素直な子っていうのは、思ったことを思った通りにちゃんと伝えられる人で、そこを考えるとわたしはただ天邪鬼なだけなんじゃないだろうか。
だってほら、わたしが素直に言いたいことを言ってたら、今頃こんなことにはなってなかったかもしれないのに。
「…ばかやろう、」
「は?」
ああ、なんてことを言うんだわたしの口。むしろわたしがばかやろうだよもう、静まれほんとに。
「アリババくんなんか、嫌い。」
「…なんだよ急に。」
普段まぬけな顔ばっかりしてるアリババくんには珍しく、眉間に皺を寄せてしかめっ面。そんな顔をさせてるのは、他でもないわたしなんだけど。
「どっか行っちゃえ、ばか。」
「意味わかんねーよ、…俺何かしたか?」
「違うもん、やだ、ばか、嫌いって言ってるの。」
三角座りをして、膝に顔を埋めたまま、罵詈雑言の雨嵐。目にはじんわり涙が滲んで、太ももにぽたりと落ちる。
「…リセ、」
呆れたようなアリババくんの声が頭の上から聞こえて、体がびくりと跳ねる。
何を言われる?何をされる?やだ、やだやだやだやだ怖い。
「こっち見ろよ。」
「やだ、」
「やだじゃねーよ、ほら。」
頭をゆっくり撫でられて、頬に手が添えられて、半ば強制的に上を向かされた。
アリババくんは呆れたような困ってるような、どちらとも取れる表情を浮かべながら笑っていた。
(苦笑、とでも言えばいいのか)
「なに拗ねてんだよ。」
「…っ、拗ねてなんか、」
「ほんとに、しょーがねーなお前は。」
「っ、」
また頭を撫でられたかと思えば、わたしの体は三角座りをしたままの姿勢で、すっぽりアリババくんに包まれる。
わたしの体は口以外の部分は正直らしい、嬉しくて胸はきゅんとするし、涙は更に溢れてくるし、腕は自然とアリババくんの背中に回った。
「っ、アリババく、」
「何があった?俺の何が不満?」
言ってみろよ、って促される。だけどそれは強いられてるカンジじゃなくて、優しく導いてくれるみたいにあったかい響き。
「…っ、あのね、」
「うん。」
「アリババくんが、きれいなお姉さん見ると、デレデレするから。」
「…うん。」
「いかがわしいお店だって行くし、わたしに反対する権利ないけど、でもっ…ずっとやだった。」
始まりは小さな嫉妬だった、それが積もりに積もって、自分じゃ抱えきれなくなって、爆発してアリババくんに当たって。
わたしが本当に素直だったら、まだ不満が小さかった時に、トゲをちくりと刺すみたいに軽く言えたはず。こんな酷いこと言わずに済んだはず。
「…酷いこと、言ってごめん、」
「…ん、」
「アリババくんが、すきっ…」
「…わかった、から。もういい。」
涙で歪んだ視界に映ったのは、ビー玉みたいに真ん丸で透き通った、アリババくんの瞳。
ゆっくりゆっくり近づいてきて、瞼に覆われて、
「…ん、」
気づいた時には、唇と唇が重なっていた。
ふに、と本当にくっつくだけで、そっと離れていく。
「…アリババくん、」
「ん?」
「…もっと素直に、なるね。」
アリババくんの指がわたしの唇をなぞって、親指が口内に侵入してくる。
「…いいんだよ、リセはそのままで。」
「…………………?」
「言ってることは素直じゃねーけどさ、」
顔が素直だから、ってアリババくんは笑って、額に口付ける。
「お前、嬉しい時にはわかりやすく嬉しそうにするからさ、それで充分。」
「…アリババ、くん。」
「リセの嬉しそうに笑った顔、すっげー好き。だから笑ってろ。」
不器用で口下手で情けない、天邪鬼なわたし。これからもずっと、我が儘や心にもないこと言っちゃうと思うの。
全然"素直"なんかじゃないけど、ねえ、ちゃんとわかってね?わたしの本当の気持ち。嫌いにならないでね。
天邪鬼の法則
Title by:透徹