※"飼い慣らす欲情"の後のお話
※下っぽいネタ含む
「…よかったんでしょうか、」
アリババくんとシャルルカンさんの鍛練を眺めてぼーっとしていると、隣にいたモルちゃんがぽつりと呟く。
「なにが?」
「…フロラさんを、あんな風に置いてきてしまって…」
「…ああ、」
そんなことを気にしていたのか、と思う反面、律儀なモルちゃんらしいなとも思った。
(わたしなんかもう、半分くらい忘れかけてたよ←)
「いいか悪いかはわからないけど、あれはフロラさんとマッさんの問題だから。」
「…そうなんですか?」
「わたしやモルちゃんじゃどうすることもできないし、あの時はああするしかなかったんだよ。」
「……………………」
俯いて黙り込んでしまうモルちゃん、きっと真面目な彼女のことだから、わたしが何を言っても考えちゃうんだろう。
まあでも、わたしたちじゃどうしようもなかったのも本当だし、後はマッさんに任せるしかないのだ、マジで。
「…なんの話だ?」
「あ、アリババさん…。」
鍛練を終えたらしい汗だくで傷だらけのアリババくんが、わたしたちに近づいてきた。
(シャルルカンさんが涼しい顔してるあたり、アリババくんもまだまだだなあ)
「お疲れ様、アリババくん。」
「おう、…で、なんの話してたんだよ?」
「んー?フロラさんの欲求はマッさんにしか満たせないよって話。」
「……………………」
「……………………」
「…………………は?」
長い長い沈黙の後、アリババくんは呆けた顔で疑問符を飛ばしながらわたしを見る。
「だからあ、わたしやモルちゃんじゃフロラさんの欲求は満たせないんだって話!」
「デケー声で言わなくても聞こえてるよ!つかお前ら、公衆の面前でなんつー会話してんだ!」
「…なんでアリババさんが赤くなっているんですか?」
「チェリーのアリババくんには、ちょっと刺激が強すぎたのかもね。」
「…チェリー?」
「モルジアナに変なこと教えんなあぁぁ!」
大声で叫ぶアリババくん、そんなに元気が有り余ってるなら、シャルルカンさんにもうちょっと稽古つけてもらえばいいのに。
(あ、あの人は終業後には働かない主義だったか)
「うるさいよアリババくん、童貞って言われたくらいで。」
「せめてチェリーって言って!さっきみたくオブラートに包んで!」
「じゃあ、チェリババくんとかどうかな。」
「やめろ!マジでやめろそれは!泣くぞ俺、いい加減泣くぞ!」
必死の形相でわたしの肩を掴んだアリババくんは、言葉通りに若干涙目。
(おお、なんと情けない)
「泣かなくたっていいんだよ、アリババくん。」
「誰のせいだよ!誰の!」
「…別に童貞は悪いことじゃないと思うよ。ヤリ○ンよりよっぽどいいんじゃない?」
「は?ヤリ…?」
アリババくんとモルちゃんは一緒になって首を傾げる。そうか、この世界にはヤリ○ンって言葉はないのか。
…まあたしかに、俗語っぽいもんね、うん。
(というか逆に言えば、チェリーはこの世界でも使う言葉ってことなのか)
「ん、なんでもないよ。…そろそろアラジンのとこ行こうか。」
立ち上がり、スカートについた汚れを払って、アリババくんとモルちゃんの腕を引っ張った。
「おわっ、き、急に引っ張んなよ!」
「あ、そうだアリババくん、」
モルちゃんには聞こえないように、アリババくんの耳元に唇を寄せて、そっと囁く。
「もしわたしがフロラさんみたいに欲求不満になったら、アリババくんが満たしてね?」
「…は、ああっ!?」
一気に真っ赤になるアリババくんの顔、それになんとなく心が満たされるカンジがした。
「…青いなあ、アリババくんは。」
「ちょ、リセお前っ…!」
今はまだ早い、だけど少しずつ、わたしも彼も大人になっていけたら―――――
そう思って見上げた空は、夕日に少し染まって、淡いピンク色をしていた。
桃色の純情
Title by:休憩