「…っは、あ…」
唇からこぼれるのは、熱を孕んだ熱いため息。心臓はどきどき高鳴ってうるさいし、頭の奥の方がもやもやする。
「うぅっ…ん…」
前もって言わせてもらうと、別に体調が優れないわけじゃない。朝は至って普通だったし、お昼ご飯もちゃんと食べた。
それなのに何故?こんなことになっているのか、それは自分でもわからない。
熱くてぼんやりして切なくてもやもやして…沢山の事柄がわたしの全身で混ざっていく。
「…フロラさん?」
「…え、」
ぱたぱたと正面から駆け寄って来たのは、さっきまでわたしと修行をしてたリセちゃん。
…たしか、シャルとやり合ってるアリババくんを見に行くって言ってたような。
(どうしてまだ、こんなところに)
「…リセ、ちゃん、」
「どうしたんですか?具合悪いですか?」
「…ちがう、の、ちょっと体が、変で…」
「…体が変、」
ぱちりと瞬いて、しげしげとわたしを見るリセちゃん。その視線に、なんだか更に体が熱くなった気がした。
「ん、むぅ…」
「…熱とかあります?」
「たぶん、ない…」
「ふうん…じゃあなんだろ…」
「ひゃあんっ、」
ぺたりと頬に手を当てられて、びっくりして思わず変な声が出てしまう。
(なんて声出してるのわたし!リセちゃんもびっくりしてるし!)
「…フロラさん、ひょっとして…」
「え?な、に?」
「…欲求不満ですか?」
「…は、え?」
ものすごく考えた挙げ句、とんでもないことを言い出したリセちゃん。よ、欲求不満って…まさかそんな、あり得ない、よ、ねえ?
「体熱いでしょ。」
「う、うん…。」
「なんだか切ないでしょ。」
「…うん。」
言い当てられてなお、わたしは納得いかない。だって欲求不満でこんなになってるなんて、そんな!
(わ、わたしったら、痴女じゃないんだから!)
「…行きましょう、フロラさん。」
「え、っ?」
ぐい、と腕を掴まれて引っ張られる。リセちゃんに触られた部分が急に熱くなって、心臓がまたうるさくなった。
「あっ、ちょ、リセちゃんっ、」
わたしの呼び声を無視するように、リセちゃんはずいずい森の方へと進んでいくのだった。
―――――…
「…あ、いた。」
「ふ、ぇ?」
しばらく引っ張られるがままについてきて、ようやく立ち止まる。
そこにいたのは、休憩中なのか、大木にもたれて座り込むモルジアナちゃんとマスルールだった。
「モルちゃーん、マッさーん。」
「…リセさん、」
律儀なモルジアナちゃんはすくっと立ち上がって、ぱたぱたと寄ってくる。
「…お二人の匂いが近づいて来てたので、いらっしゃると思ってました。」
「もう修行は終わり?」
「…はい、恐らく。」
ちらりとわたしを見てから、マスルールに目を向けるモルジアナちゃん。
「…マスルールさんに、用事ですか?」
「うん、フロラさんがね。」
「…え、わ、わたしっ?」
な、何を言ってるんだリセちゃん!わたしわけもわからず引っ張られて、ここにつれてこられたんですけど!
「モルちゃん、一緒にアリババくんのとこ行かない?」
「…はい、ご一緒します。」
「じゃあフロラさん、後は頑張ってください。あ、マッさんに言えばたぶんそれ解決しますから。」
それ、とはわたしの体の異変を示しているのだろう。リセちゃんはモルジアナちゃんをつれて、行ってしまった。
(というか、何を頑張れっていうの!)
「あ…うぅ…」
「…どうした、フロラ、」
「ひゃあっ、」
いつの間にか近くに来ていたらしい、マスルールがわたしの肩に触れて声をかけてきた。
「や、あんっ…」
「…フロラ?」
リセちゃんに触られた時より熱くて切ない、どきどきする。何これ、なんでこんなに…っ。
「は、あっ…マスルールっ…」
「…何があった、」
「…わ、かんない…でも体熱くて…どきどきしてっ…」
向かい合って話してても、マスルールの視線に体が焼けていく。どうしたんだろうほんとに、おかしいわたしの体。
「…フロラ、」
「なに…っ、んぅ、」
大きな体を折り曲げるみたいに屈めて、わたしに口付けるマスルール。
いつもなら心地いいはずのキスに、体の奥が疼いて熱を帯びていく。
「は…っ、あ…」
「…なんで、そんな顔をしてる?」
「そ、んな…顔って?」
「…俺がお前を抱いてる時と、同じ顔…。」
「―――――っ!」
抱いてる、って…それはつまり、よ、夜のあの時のこと…だよね?
(ってことはわたしやっぱり、欲求不満なの!?)
「う、あぅ…マスルール…」
なんてはしたない、そんなことでこんなことになってしまうなんて。わたしはバカか、アホか、淫乱か!
…だけど、自覚してしまった以上、もう抑えきれないわけで、
「もっと…して…」
何がきっかけでこうなってしまったのかなんて、もうわからないけど、とにかく体がマスルールを欲しがってる。今のわたしにあるのはそれだけ。
「…フロラ…」
「…っ、マスルール…」
これが終わったらたぶんとんでもなく恥ずかしくなるんだろうな、なんて密かに頭の隅っこで考えてたけど、マスルールの手が体を撫でて、全身が甘く痺れて、なんだかもう何も考えられなくなった。
飼い慣らす欲情
Title by:透徹