「…いいの?」




俺が決死の覚悟で言った言葉を蹴り飛ばすみたいに軽く、リセは言い放った。




きれいな瞳がぱちぱちと瞬いて、不思議そうに俺を映す。




「ねえアリババくん、」




長い髪の毛をさらさらと揺らしながら俺に近づいてきて、少しだけ上目遣いに、だけどまっすぐ俺を見つめるリセ。




「本当に、わたしでいいの?」




「いいの、って…」




いつも通り意思の強そうなその視線に若干たじろぎながらも、俺も言葉を返す。




「いいとか悪いとか、そういう問題なのか?」




「―――――わかってないなあ、アリババくんは。」




そっと手に何かが触れる感触、かと思えば突然ぎゅっと握られた。




見れば、いつの間にかリセの両手が俺の手を強く握りしめている。




「わたしはきっと、アリババくんが期待してるようなことはできないよ。アリババくんに尽くすことも、常に優しくしてあげることも、君が悲しい時に上手に慰めてあげることもできない。アリババくん好みの大きな胸だってないし、モルちゃんのようにきれいなお顔立ちもしてない。」




ぎゅう、と握られた手に更に力が込められた。爪が食い込んで少し痛い。




「…それでも、わたしを選んでくれるの?」




リセの両手は、小さく震えていた。




「もっときれいな人なんて、世界中にいくらでもいるよ。わたしよりずっと優しくて、可憐で、守ってあげたくなるような。今ここでわたしを選ぶなんて、しばらく行けば美味しいリンゴの生る木があるのに、すぐそばにある得体の知れない、美味しいかもわからない変な実を取って食べようとするようなものだよ。」




「…ああ、わかってるよ。」




俺だってそんなことわかってんだよ。お前よりきれいな人なんてごまんといる、お前より優しくて可愛いげのある人なんていくらでもいるって。




「でも仕方ねーだろ、」




空いている片手でリセの頭を引き寄せて、そっと胸元に押し付ける。




甘い匂い、いつもと同じ、リセの匂いをいつもより近くに感じる。




「アリババく、」




「確かにお前は大して可愛くもないし、優しくもないし、胸だって小さい。だけどいつも黙って俺のそばにいてくれて、必要な時にはしっかり正しいことを言ってくれる。」




「…可愛くないとか、はっきり言わないでほしかった。」




「おい、もっと違う部分に焦点当てろよ。」




ちゃんと誉めてやってんのに、そこだけ聞いてないのか、誉められて恥ずかしいから知らないふりしてるだけか。




まーこの際、どっちでもいいけど。




「上っ面だけ見りゃ、お前の代わりになる女なんかいくらでもいるよ。だけど違うんだ。お前の中身が、俺は欲しいんだ。絶対に代わりがきかない、お前の心。」




「…なかみ、」




「尽くしてくれなくていい、優しくしてくれなくてもいいし、慰めてくれなくてもいい。お前はただ、お前のやりたいようにしながら、俺の隣にいてくれればいいんだ。」




今までだってそうだった、リセは好き勝手してるように見えて、ちゃんと俺のことを理解してついてきてくれた。




「…アリババくん、」




俺はお前の、他の誰も持ってない、そういうところに惹かれたんだよ。




「…なあ、もう一回だけ言うけど、」




押し付けていた顔が胸元でもぞもぞ動いて、俺を見上げた。




なあ、わかれよ。俺が欲しいって、ずっとそばにいてほしいって思うのは、




「好きだ、リセ。」




世界中探しても、お前しかいないんだってさ。













Title by:休憩

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