※十四巻ネタバレあり




アリババくんとアラジンがいかがわしいお店に入ったのを見届けて、わたしとモルちゃんは仕方なく今夜泊まる宿へ足を向ける。




白龍と別れてからずっと沈んでいた彼女だけど、今はその後ろ姿が怒りに満ち溢れている。
(モルちゃん怒ると怖いもんなあ)




「…リセさん、」




ふと立ち止まったモルちゃんは、なんだか泣きそうな表情をしてわたしを見る。




…今日の彼女は怒ったり泣いたり、忙しいなあ。




「…どうしたの、モルちゃん。」




「…リセさんは…アリババさんのどこがお好きなんですか?」




「…………………?」




彼女にしては珍しい質問だ、わたしとアリババくんのことなんて、普段まったく聞いてこないのに。
(興味がないのか、それとももっと他に理由があるのか、それは知らないけれど)




「どうして急にそんなこと聞くの?」




「…私は、人を好きになるという気持ちがよくわかりません…。」




「…白龍に何か言われた?」




「…………………」




黙り込んでしまったモルちゃん、白龍と別れて戻ってきてから様子がおかしかったから、まあ彼が絡んでいるなとは思ってたけど。




「…白龍さんに、妃になってくれと、言われました。」




「…はあ、妃。」




「私のことが好きだと…共に来てほしいと言われて、その…」




そこでモルちゃんが口ごもったので、うん?と疑問系で続きを促す。しばらくモゴモゴ言った後、とても言いづらそうに口を開いた。




「…口づけを、されてっ…」




「…ああ、」




つまり白龍はモルちゃんが好きで、いつものごとく一人で勝手に突っ走って、挙げ句キスまでしちゃったと。
(その光景が目に浮かぶようだ)




まあモルちゃんは可愛いし強いし、白龍の気持ちもわからなくはないけど。でもやっぱり、相手の意思を無視するのはよくない、んじゃないかなあ。




「…モルちゃんは、白龍のこと好き?」




「…好き、ですけど…それは仲間としてであって…」




「…なるほどねえ。」




モルちゃんも大変だなあと思いつつ、彼女が急にさっきの質問をしたのもなんとなく納得がいった。




アリババくんはお店できれいな女の人にデレデレしてたし、白龍は変なこと言うし、要するにまあ、わたしがアリババくんに向ける気持ちがどんなものか純粋に気になったんだろう。
(その所謂、恋愛感情というものが)




「…わたしは、アリババくんのまっすぐなところが好きだよ。」




「…え…?」




「確かにアリババくんはヘタレだし、女好きだし、鈍感だし、空気読めないし、ダメなところだらけだよ。でも人一倍正義感が強くて、努力家で、優しくて、まっすぐで、いつも誰かのために頑張ってる、素敵な人だと思う。ダメなところよりも、わたしは彼のいいところを沢山知ってるから。」




「…リセさん…」




「誰かを好きになるって、理屈じゃないんだよ。わたしはこの世界に来て、アリババくんと出会って、いつの間にか惹かれてた。どうしようもなく好きになって、ずっとアリババくんと一緒にいたいと思うようになったの。」




さあ、と夜風が吹いて髪をさらっていく。




「…もちろん、アラジンのこともモルちゃんのことも、わたしは大好きだよ。でもアリババくんは違うの、好きだけじゃ言い表せない。離れたくないって、一緒にいたいって、心も体もアリババくんを無意識に求めてる。」




「…私…わかりません、そんな気持ち…」




「無理してわかろうとしなくてもいいんだよ。理解しようとしてできるものじゃないからね。いつか心の中に自然に芽生えて、初めて気づくことができるんだと思う。」




俯いて何かを考え込むモルちゃん、そんな彼女の頭をそっと撫でてあげる。




「白龍がしたことは、正直間違ってると思う。一方的な想いをぶつけるだけじゃ、ただの自己満足だから。…でもきっと白龍は白龍なりに、モルちゃんをすごく大切に想ってるんじゃないかな。」




「……………………」




「…ねえモルちゃん、」




「…はい…?」




「…モルちゃんは…アリババくんが好き?」




「―――――っ!」




「モルちゃんにとっても…アリババくんは特別な存在…?」




モルちゃんは泣きそうな顔でわたしを見る、けどきっと今のわたしは彼女と同じような顔をしているはず。




まるで鏡を見てるみたいな、そんな気になった。




―――――…




「じゃあ元気でな!モルジアナ。」




「はい。」




「また会おうね、モルちゃん。」




「…リセさん、」




アリババくんから受け取った首飾りを握りしめながら、モルちゃんは晴れやかな表情を浮かべる。




…ああ、彼女の悩みは解消されたのかな。そうだったらいいんだけど。




「リセさん、私、アリババさんのことは好きです。」




「…そっか。」




「…でも…アリババさんは特別ではなく、大切な仲間で恩人です。たぶん…リセさんがアリババさんに抱いている感情とは、違うんだと思います。」




「…モルちゃん…」




「私は、リセさんとアリババさんが一緒にいるのが好きです。お二人とも大切で、大好きです。」




「…ありがとうね。」




眩しいくらいにすっきりした顔をしたモルちゃんに背を向けて、船に乗り込む。




間もなく出発した船は、港から徐々に遠退いていく。




「モルちゃーん、またねーっ!」




少しずつ広がっていく距離、その先に頭を深く下げているモルちゃんが見えた。




「…二人になっちまったな…。」




わたしと同じように港を見つめながら、アリババくんは呟く。




「…そうだね、」




「…また…会えるよな?」




「うん、会えるよ。アラジンが言ってたでしょう?わたしたちの運命は繋がってるって。」




「…そうだな。」




「…ねえアリババくん、」




見上げた空は果てしない青、きっとアラジンもモルちゃんも白龍も、同じ空を見ているんだろう。




そう、離れていても、わたしたちは繋がっている。




「…わたしは、ずっとアリババくんについていくよ。たとえ何があっても。」




―――――さようなら、大好きな人たち。いつかまたどこかで会えるまで。













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長編の最終話くらいの勢いで書いてしまって、反省している←

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