頬に涙の跡を残して、再び眠り始めたリセを見ながら、そっと息を吐く。




穏やかに閉じられた瞼と安らかな寝息は、さっきの狼狽えようが嘘みたいに思えてくるほど落ち着いている。




「…どこにも、行きたくない…か…。」




考えてみれば、こいつがあんなに必死に何かを訴えるのを見るのは初めてだった。




突然俺たちの前に現れて、異世界から来た、なんて普通じゃ信じられないようなことを平気で言ってのけて。




いつも飄々としていてマイペースなのに、意志が強く、俺の間違いをしっかり正してくれる。




「…リセ…」




すやすやと眠る顔は、いつも見せるのとは違う、あどけなさが残る少女らしいもの。




いつだって俺に弱さを見せないから、気づかなかった。




こいつは強いんだ、っていつの間にか心のどこかで勝手に決めつけていた。




「…どこにも、行かせねーよ…。」




額にかかる前髪をさらりと分けてやると、くすぐったそうに身動ぎする。




…離したくない、守ってやりたい。




今まで自分の中にあった感情のどれとも違う、うまく言い表せない不思議な気持ちが芽生えているのがわかった。




「…好きだ。」




穏やかな寝息を飲み込むみたいに、リセの唇に自分の唇を落とした。













Title by:透徹

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