どうしようもなかった。でもたとえそれがどうにかできることだったとしても、わたしがどうにかしようとしたかはわからないけれど。
結果論として、これはどうにもならなかったんだ。だからつまり、どうしようもなかったってこと。
でもそれじゃ終わらない、それだけじゃ納得できないのがアリババくんなんだ。
ねえ、そうだよね?
「…リセ、」
アリババくんに強く掴まれた腕は、何故かそこだけ焼けたみたいに熱く感じる。
恐らく実際は全然熱くなんかなってないんだろうけど、わたしと彼の体温を足しても足りないくらいに熱を帯びてる気がするの。
「…アリババ、くん。」
呼んだ声は弱々しくて頼りない、自分では普段通りに喋ってるつもりなのに、おかしいな。
「…俺はっ…!」
アリババくんの腕が震えている。それに呼応するように、わたしの体も震える。
先に震え出したのは、一体どっちだったんだろう。
「…ごめんね、」
謝ることしかできない、わたしにはもうどうすることもできない。
知ってたんだ、本当は、この世界に来た時から。
いつか、さよならしなきゃいけない日が来るって、わかっていたのに。
「…ごめん、アリババくん。」
泣きそうになった、だけどわたしが泣くのはなんとなく違う気がして、唇を噛んで涙を堪える。
俯いて黙り込んでいると、掴まれた腕に更に力が加えられた。
「行くなよっ…!」
「……………………」
「リセ…俺はお前が…」
「…アリババくん、」
「リセっ…!」
―――――…
「リセ?おーい、起きろよー。」
頭の中が白に包まれて、浮遊していた意識が戻ってくる。
重い瞼を無理やり開くと、いつも通りへらへらしたアリババくんがそこにいた。
「…あり、ばばくん…?」
「大丈夫かよ、だいぶ魘されてたけど…。」
「…………………?」
視線を巡らせると、わたしたちが寝泊まりしているシンドリア王宮の一室の風景。
「…夢、か…。」
「リセ?お前本当に大丈夫かよ?」
アリババくんの手が顔に伸びてくる。わたしの肌にそれが触れるより早く、わたしはその手を掴んだ。
「わっ!…リセ?」
「…アリババくん、」
じわじわと視界が歪む、目尻から雫が流れて、こめかみから頭皮へと滑っていった。
「…っ、おい…なに泣いて…」
「アリババくん、」
掴んだ手を自分で顔に持っていくと、アリババくんの手の感触が薄い皮膚を通して伝わる。
溢れ出す涙は一向に止まる気配がなく、喉の奥がツンとしてしょっぱい。
「…どこにも、行きたくないよ。」
「え…?」
「ここに、いたいよ。」
自分で望んで来た世界じゃないのに、今はここから離れるのがいやで仕方ない。
長く居すぎたせいか、それともアリババくんと離れたくないからか。…答えなんて、わかりきっているんだけれど。
「ねえアリババくん…もしも…」
もしもわたしが夢みたいに、本当にこの世界からいなくならなきゃいけない時がきたら、アリババくんはどうするんだろう。
わたしにはどうすることもできない、でもだけど、ねえ君だけは、抗ってくれるのかな?
「…離さないで…お願いだからっ…!」
バカみたいに涙が止まらない、情けないってわかってるけど、でも止まらないの。
「リセ…。」
ふわ、と体に重みがのし掛かる。言わずもがな、それはアリババくんの体だった。
「…どこにも行くな。」
「アリババく、」
「ここにいろよ、ずっと。」
長い指がわたしの涙を目尻から掬って、瞼に口づけが落とされる。
「っ、アリババくんっ…」
「離してなんかやんねーよ、…リセ、」
柔らかく笑ったアリババくんの顔が段々近づいてきて、唇と唇が触れ合った。
「…好きだよ。」
息がかかるくらい近くで囁かれて、今度は深く唇が重なった。
どうにもできないことばかり
Title by:透徹