※学パロ
「…暑い…」
正午を過ぎてなお、太陽が高い位置にある昼休み。わたしは緑化委員の当番で、花壇に水やりをしに中庭に来ていた。
ホースから溢れる水飛沫が、日差しを浴びてきらきら輝く。
その夏特有のきらめきに少しだけ嬉しくなったけれど、やっぱり暑いものは暑い。体が焼けそうだ。
「わたしも…水浴びしたい…」
水を浴びた花たちは、それはそれは気持ちよさそうに花弁を雫で光らせる。
…いいなあ、涼しそうで…
「あれ、リセ?」
「……………?あ、アリババくん。」
急に呼ばれて振り返ると、そこにはTシャツにジャージ姿のアリババくんがいた。
首にタオルを引っかけていて、額やこめかみからは汗が伝っている。
「なにお前、当番?」
「うん、そうだよ。アリババくんは?」
「俺は、シャルルカン先輩と自主練。」
そう言いながら、ぱたぱたと手で自分の顔を扇ぐ。ぽたり、前髪から汗が垂れて地面に落ちた。
「…アリババくん、暑い?」
「そりゃーな、運動した後だし、この天気だし。」
空を仰ぐアリババくんにつられて、わたしも上を見る。太陽が視界を突き刺すみたいにぎらぎら輝いていて、目が痛くなった。
「…眩しい、」
思わず俯いて目を覆うと、持っていたホースが手から離れた。
…そうだ、いいこと思い付いた。
「ね、アリババくん。」
「ん?」
「涼しく、なりたい?」
「は?…そりゃまあ、な。」
アリババくんの返答を聞いて、地面に落ちていたホースを持ち上げる。
「じゃあ、わたしが涼しくしてあげるよ。」
「へ?………………うわっ!」
ばしゃ、と豪快な音がして、アリババくんは頭からずぶ濡れになる。
わたしの向けたホースの先端はなお、アリババくんに水を浴びせていた。
「ちょ、リセ、ごほっ、」
「どう?アリババくん。」
「どうって…ちょ、いいから、水、止めろっ!」
びしょびしょに濡れながら文句を言うアリババくん。仕方なく蛇口を捻って水を止めてやると、噎せながら顔を拭い始める。
「ごほっ、リセお前、急になにす…」
「涼しくなった?アリババくん。」
汗は水が流してくれたけど、今度は別の雫がアリババくんから滴っている。
ぷるぷると子犬みたいに頭を振って、怒ったような困ったような表情をわたしに向ける。
「…お前なあ…いくら暑いからって、いきなり水ぶっかけるか?」
「…お花が、嬉しそうだったから。だからアリババくんも、水浴びたら嬉しいかなって。」
「…やっぱわかんねーよ、お前の考えてること。」
「アリババくん、怒ってる?」
「…いや、怒ってねーよ。」
苦笑しながら、濡れた手でわたしの頭を撫でるアリババくん。彼の冷たさがそのままわたしに伝わってくる。
「…アリババくん、」
「ん?………………うわっ!」
びちゃびちゃのTシャツに飛び込むみたいに、アリババくんに抱きつく。ひんやりしていて冷たくて、わたしも涼しい。
「おいリセ、濡れるって!」
「アリババくん、気持ちいいね。」
ぺた、と顔を胸元に寄せる。そうしてる間にもアリババくんの水分を、わたしの制服や髪が吸っていく。
―――――結局わたしもびしょびしょになって、二人して白龍に叱られ、モルちゃんとアラジンに心配されてしまうのは、昼休みが終わる数分前の話。
夏色スプラッシュ