シンドリアの民は皆、国王であるシンドバッド様が大好きだ。彼がいるからシンドリアは栄え、幸福に満ち溢れた国なのだと思っている。
わたしだってもちろんシンドリアは好きだ、だけどわたしが本当に好きなのは、シンドリアでもシンドバッド様でもなく、あのお方なのだ。
「セレネは偉いですね、いつもきちんと仕事をこなして。」
政務官として、またシンドリアの八人将として、いつも国のために尽力していらっしゃるジャーファル様。
あの方がいるから、わたしはシンドリアにいる。あの方がいるから、わたしにとってシンドリアが大切な場所になるんだ。
「お疲れ様、明日はゆっくり休んでくださいね。」
だからわたしは、シンドリアのためじゃなくてジャーファル様のために戦うの。もしも死ぬ時がきたら、他の誰でもない、ジャーファル様のために死にたい。
ずっと、そう思ってた。
――――――…
「…バカなんですか、あなたは。」
あれジャーファル様、どうしてそんな怒った顔してるんですか?
せっかくの端整なお顔立ちが台無しですよ?いつものように笑ってください。
「セレネっ…」
ああ、あなたの声で呼ばれるわたしの名前は、なんて素敵な響きなんだろう。
…ジャーファル様?どうしてそんなに泣きそうな顔をしてらっしゃるんですか?
あれ、わたしおかしい、さっきから言いたいことが全然口に出せない。
「―――――は…っ、」
代わりに口から漏れたのは、熱に浮かされたみたいな熱い吐息。声が出ない、腕もうまく動かない。
…ああそっか、わたし…
"―――――ジャーファル様、危ない!"
さっきジャーファル様を庇って、敵に切られたんだっけ。
おかしいな、急所は外したから死なないはずだけど。ちょっと深く切られ過ぎたかな。
「…無茶をしないでくださいっ…!」
悲痛な訴え、わたし知らない、こんなジャーファル様。あの方のこんな声、聞いたことない。
「じゃ、ふぁる、さま、」
「あなたがいなくなったら…私はっ…!」
動かせない手を、ジャーファル様が握ってくれた。あたたかい、なんて幸せなんだろう。
「…すみま、せん。」
「…二度と、あんなことはしないでください…。」
そんなこと言われても、たぶんわたしはまた同じような状況になったら、ジャーファル様を庇うんだろう。
だってわたしの命は、ジャーファル様のためのものだもの。シンドバッド様じゃなくて、ジャーファル様の。
ああでも、またわたしが傷ついてあなたがそんな顔をするのであれば、わたしはもっと強くならなくちゃいけないかな。
あなたを守っても、平気で笑っていられるくらい、強く。
ねえ、そうでしょう?
鮮やかに心酔
某オフ友ちゃんへ捧ぐ