ピスティと並べば友達、でもヤムと並べば姉妹。スパルトスと並べば恋人だけど、マスルールと並べば兄妹、もしくは親子。
大きくなりたい、ヒナホホさんくらいとまではいかなくとも、マスルールの隣に並べるくらいまでには。
「…別に、そのままでも可愛いと思いますけど。」
平然と言ってのけたのは、最近アリババくんたちと一緒に食客に迎えられたリセちゃん。
なんでも異世界から来たらしく、シン様が大変興味をお持ちらしい。まあ事実、彼女には人を惹き付ける不思議な魅力があるとわたしも思う。
「…リセちゃんは、アリババくんとそんなに身長差がないから、そうやって言えるんだよ。」
「まあ、アリババくんは大して大きくないですからねえ。」
ふわ、と欠伸をして、潤んだ目でわたしを見るリセちゃん。
「でもわたし、アリババくんがアラジンくらい小さくても、アリババくんのこと好きです。」
「…そ、れは…わたしだって…」
わたしだってそれはそうだと思う、マスルールがいくらわたしより小さくても、きっと彼を好きになっていたはずだから。
(でも、やっぱり問題はそこじゃない、と思うの)
「大体恋愛なんて、身長気にしてするもんじゃないですよ。マッさんだって、そう思ってるんじゃないですか?」
手に持っているバトンをくるくる回しながら、リセちゃんは退屈そうに言葉を投げる。
でも彼女のそれは、無関心だからとかどうでもいいからなんかじゃなく、思ったことをそのまま素直にぶつけてくるからなんとなくぶっきらぼうに聞こえるだけだって、わたしは知ってる。
「…あ、フロラさん、」
「え?」
「噂をすれば、ですよ。」
頑張ってくださいねーって去ってしまったリセちゃん、そんな彼女と入れ違いに、マスルールがわたしに近づいてくる。
「…フロラ、」
「…マスルール…」
わたしがどれだけ手を伸ばしても、彼の頭に届くことはない。見上げるほどに高い身長、彼と話す時はいつも首が痛い。
どうしたら届くのか、どうしたら近づくのか、いくら考えたってさっぱりわからないの。
「…嫌か、」
「え…?」
「…俺は、小さくてもいいと思う。」
「…あ…」
どうしてこの人は、こんなにもわたしの気持ちに敏感なんだろうか。流石ファナリス、とでも言えばいいのか。
(あまり関係ない気はしなくもないけど)
「…嫌っていうか…その…」
「…………………」
「ま、マスルールと並んだ時に…兄妹に見られるのが、ツラいというか…悔しいというか…」
「俺たちは兄妹じゃないだろう。」
「…それはまあ、そうだけど…」
うまく言葉が見つからなくて、思わず俯く。泣きそうなわけじゃないけど、なんとなくマスルールの顔が見られなかった。
「…小さい方が、守りがいがある。」
「…え…?」
「別にデカくたっていいけど、小さいと俺が守らなきゃって気分にさせられる、から。だからフロラは今くらいでいい。」
「…マスルール…」
彼から降り注ぐ言葉は、わたしの心に柔らかく浸透していく。
「…それに、」
「ひゃっ、」
ひょいっと片腕でわたしを抱えあげて、目線を自分と同じくらいの高さに持ってくるマスルール。
こんな近くで彼の顔を見るのは、初めてかもしれない。
「これくらいの方が、捕まえておきやすいし。」
「んっ、」
ふわ、と唇が優しく重ねられる。
触れるだけで簡単に終わったそれに、わたしの心臓は今だかつてないくらいに騒いでいる。
(抱き上げられてるからなのか、いつも以上にマスルールが近いからか、どっちだろう)
「マスルー、ル…。」
「…フロラ、」
穏やかな声音で名前を呼ばれて、思わず彼の首に腕を回してしがみつく。
再び降ってきた唇は、わたしの心を表すみたいに甘酸っぱかった。
ラズベリー・シャワー
Title by:休憩