自分で言うのもなんだが、過去を振り返ってみれば『優しい』と言われるよりも『冷たい』と言われる方が多かった。
別に冷たくしようとしてるわけじゃないが、思ったことをそのままズバズバ言うところとかが良くないらしい。まぁ、直すつもりはないけど。
ガキの頃からずっとサッカーをしてきて、昔からプロになることを目標にしてたから正直、あまり他人に構ってる暇もなかった。
プロになった今も毎日が戦いみたいなもんだからそこんとこは変わってない…はずだったんだけど。
「椿!いつまでやってんだ!」
「ひぃっ!? あ、ザキ、さんっ」
「今何時だと思ってんだよ…明日も朝から練習あんだぞ?」
「す、すみません、あの、俺、時計…」
「自己管理って言葉知ってっか?」
「ぅ…ウス…」
持ってきたタオルをチームの1コ下の後輩の顔めがけて投げつけて、こいつがそれに手間取ってる間にボールを回収する。今日はもうこいつにはボールに触らせねぇ。
ざっと汗を拭き終わった椿に、今度はジャージの上着を投げる。
夜になれば当然気温が下がるし、汗をかけば余計に体を冷やしやすいなんてわかってなきゃいけないってのに、こいつはそういうところに全く頓着しない。
「っぷ…は、」
「おら、とっとと帰んぞ。んでさっさとシャワー浴びろ。すぐ浴びろ」
「ウ、ウス!」
返事だけはいいんだ、こいつ…。基本的に素直だし、バカじゃないと思うのにどうしてこうも同じことを繰り返すんだ?
「ザキさん、ボール…」
「いーよ、俺が持つ。ていうか椿、お前もう今日はボール触んな」
「えっ」
「ボール蹴らなきゃ落ち着かない、ていうのはわかる気もするけど。でも物事には限度があるだろ」
「うぅ、」
ぺたん、とありもしないはずの耳が伏せられる。
こういう椿はうっかり甘やかしたくなるが、それじゃあ何にもなんないだろうが、と内心でごちて寮へ足早に帰る。
「お、椿おかえりー。赤崎もごくろーさん」
「「世良さん」」
寮へ入ったところで世良さんと会った。
その世良さんはちょっと考えるような顔をしたあとで椿の肩を叩いた。
「椿、へこんでんのな。赤崎に怒られたんだろー」
「うう…っ」
「怒られるようなことをするほうが悪いんすよ。ほら、椿は早くシャワー行けって」
「は、はい!」
失礼します、なんて律儀に頭を下げて小走りに去っていく後ろ姿を見送ってると、世良さんがニヒヒーだなんて笑った。何すか。監督の真似ですか。
「赤崎は椿のことが大好きだな!」
「はあ!?」
「わざわざ迎えに行くし、シャワーの心配してやったり、あと遠征のときも…」
「何わけわかんないこと言ってんですか。そういう無駄なことに労力使うから身長が伸びなかったんですよ」
「俺と椿とで扱いの差がありすぎるところもな!」
「当然でしょ、だってあいつは、」
あいつは、椿は。
―――あいつ、は?
「後輩なんだから、面倒見んのも当たり前じゃないっすか」
「先輩を敬う重要性も認めろよな」
「必要なときにはしてますよ」
「かっわいくねーの!赤崎のバーカ!」
…ガキかよ、あんた。
じゃあな、早く寝ろよ、と言い残して立ち去る世良さんも見送る。
どこかぼんやりした頭の中でぐるぐると回るのは、たった今の自分の言葉。
「チームメートで、後輩、だよな…」
誰もいなくなったロビーに独り言が思った以上に大きく響いた。
過ちの友情は
いかがですか
thx 空想アリア