「………」
「…ちょっと、ね?椿君?」
「はい?」
「じっと見てどうしたの。俺の顔に何か付いてる?」
「いえ、別に…」
「…あ、そう」

膝に乗せた雑誌を見てたはずの椿君がいつの間にかじっとこっちを見てた。視線に気づいてどうしたかと問えばこれだ。すぐに視線が紙面に落ちる。でもまたちょっとしたらこっちを見てるんだよなぁ。

「椿君」
「見てません」
「………」

あー、そう。そういう態度取るの。そういうこと言うから全部ばれるんだよって、教えてあげないからね。
椿君がかわいくないから俺もふいっと顔を反らして手にしてる雑誌に没頭する、ふりをする。目を伏せて読む格好だけを保ってると、また視線を感じた。でもそっちを見ない。無視だ、無視。

しばらくはそのままじっとしてた椿君だけど、じりじりとこっちに寄ってきた。どうするつもりかなぁ、と体勢を変えずにいたら、あともうちょっと、というところでぴたりと止まった。

…なんだろう、この隙間…。椿君が恥らってこれ以上近寄れない、という感じでもない、気がする。

「………」
「………」

突如始まった根競べはなかなか終わらせるタイミングが掴めないままに時間だけが流れていく。雑誌を読むふりをするのにも限度があるけど、ここで反応を見せたら負けのような気もするからそれもできない。正直、こんなことに時間を使うのがすごくもったいない。俺たちがこんなにも穏やかに過ごすことはそうあることじゃないんだ。もっといろいろ話したいこともしたいこともあるのに…。

「…っ、」

ちらり、と椿君の様子を見ようと視線を流した瞬間に、無造作に投げ出してた指が包まれる。俺よりも少し小さくて少し暖かい椿君の指。重なったそこからじんわりと熱が伝わって広がる。ゆるり、と椿君が俺の手を辿るように動かすからまたそこに熱が生まれては浸食される。

まるで猫の尻尾で撫でられているようなむず痒い感覚に、神経が尖る。

「わっ」
「つーばきくーん」
「ぃった…ぁ、もちだ、さ、」
「まったく君ってさぁ…どこでそんな誘い方を覚えてくるの?誰に教えてもらったか、俺に教えてくれる?」
「さそ…?っ、な、なにを…っ、誘ってなんか、ないです!」
「そういうところがほんっと、タチ悪すぎてムカつく。けどかわいい」

悪戯に肌を刺激する指を掬い上げて爪に唇を押し当てる。
押し倒した椿君が俺の下で目を見開いて、じわりと目許に朱を滲ませた。

「知ってる、椿君?」
「なにを、ですか…?」
「嘘吐きは狼に食べられちゃうんだよ」

唇だけで愛でていた指先に歯を立てた。そのままゆるりと舌を伸ばして、爪と指の間をこじ開けるように舌先をきつく押し当てる。

「やめ、…っ!」
「あれ?これで感じちゃったの?」
「か…っ!? 違いますっ」
「うそつき」

にんまり、と意地悪く笑ってみせたら椿君は悔しそうな顔を隠すように目を伏せた。
だからそういうのが…って、言い出したらキリがないね。だって椿君てば嫌になるほど無自覚の無意識で無防備なんだもん。

まったく、タチ悪いのに惚れちゃったなぁ…やっぱこれって俺が負けなの?

「まぁいいや。とりあえず嘘吐き椿君はおとなしく俺に食べられちゃってね」
「嫌ですよっ!よくないです!」
「この体勢で勝てるわけないじゃーん」

負けは負けなんだろうけど、それを認めるのと椿君に気付かれるのとは別問題。
だってイニシアチブは俺が持ちたいんだってば。





猫と狼の恋愛




thx レイラの初恋





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