「椿、大丈夫か?」
「へ、あ、ザキさ…あ、たぶん…」
「大阪の7番みたいな答え方になってるぞ」

もしかしてやばいんじゃ、と思って肩に手を置いてこちらを向かせると案の定、潤んだ目が酔ったとはっきりと伝えてきた。見張ってたわけじゃないけど、途中でちらっと見た感じ、いつもよりハイペースで飲んでるなとは思ってたんだ。でもガキじゃないんだし自分のペースくらいコントロールできるだろうと放っておいたら、これだ。飲み会なんて何回も経験してんのに未だに自分の飲み方も把握できてないのかよ。

「立てるか?」
「ぅ、ん、はい、だいじょうぶ…」
「吐き気は?」
「平気、です。あの、ザキさん…?」
「なに」
「おれ、ひとりで帰れますよ?だからザキさんはまだ飲んで…」
「別にいい。つーかその状態のお前をひとりで帰して飲んでらんねえよ」

なにあかさきかえんのー?と完全に酔った世良さんが絡んでくるのを適当にあしらって、ちょっとふらついてる椿の腕を引いて座敷を歩く。途中で何人もが声をかけてくるからそれにいちいち丁寧に返事をする椿のせいで思うようには前に行けないけど。

「監督」
「ん?おー、赤崎。椿連れて帰ってくれんの?」
「っす、こいつ結構酔ってるんで」
「んー、頼むわ。お前も飲んでんだろ?気を付けて帰れよ」
「はい」
「椿、水分取ってさっさと寝ろよ」
「は、はい!ありがとうございま、って!」
「あーぁ、早く帰れよ」
「そうします」
「す、すみませ…失礼します」

何もない畳の上で躓きかけた椿を抱えて進む。腕引っ張るくらいじゃ危なっかしくてやってらんねえよ。なんでこんなにもフラフラになるまで飲むんだ、こいつ。律儀に注がれた酒を全部飲んで、そんなことするから余計にみんなから酒をさらに注がれて…。

「ザキさん」
「なに」
「俺、ほんとひとりで帰れるっす」
「お前、人の話聞いてた?」
「へ、」
「あー、それは別にいいや。ほら、とりあえず帰るぞ」
「あ、あ、あのザキさん、だから…」
「畳で躓くような奴がひとりで帰れるとは思えねえな」
「う」

さっきの醜態を指摘してやったら黙り込んだ。さすがにあれは自分でもやばいと思ってるんだろう。平気だと繰り返すわりには足に酔いがきてるからな。

飲み会の会場になった店は寮からは少し離れてるけどタクシーを使うほどでもない。外へ出てみれば雨は降ってないし、そう寒くもないから歩くぐらいがちょうどいい。椿がちょっと心配だったけど、聞いてみたらやっぱり大丈夫、との返事。まぁそうくるとは思ってたけど。でも外の空気を吸ったからかさっきよりも表情が引き締まったから大丈夫だろうと判断して歩いて帰ることにした。

「お前、今日どんだけ飲んだ?」
「ん、えっと…最初はビールを2杯くらいで…そのあとカシオレとか、ソルティードッグ?とかのカクテルと…あと王子がワイン飲ませてくれて…あ、御猪口でも何か飲んだ、です」

思った以上にちゃんぽんしてんな…そりゃ酔うはずだ。吐き気がないのが幸いだ、結構無茶な飲み方してる割りには。

「何かって何だよ」
「う…日本酒、だと思うんすけど…よくわかんないっす。コシさんと堺さんが飲んでたのを丹さんが…」
「ほんっとフリーダムだな、あの人は…」

どうせいつもみたいに笑いながら椿に御猪口を押し付けたんだろう。そしてコシさんや堺さんが止める前にそのままの勢いで飲んだんだろうな、椿のバカは…。断ることを覚えたらいいのに。

「とりあえず、お前は飲みすぎ」
「う、うす…」
「いい加減、自分の飲み方みたいなのを知れよ。あと断り方も覚えろ」
「う、っす!」
「どうしても断れそうになかったら俺に言えば、代わりに言ってやるし」
「え…、あ、はい!ありがとうございます」

ふにゃん、と椿が笑った顔に目が釘付けになる。いつもはチキンでふらふらと視線が彷徨うくせに、こういうときだけはっきりと人の顔を見てくるんだから心臓に悪い。街灯の下ででっかい目が潤んでて、余計に心臓がバクバクという。

「〜〜〜椿、ちょっとソコ座ってろ」
「ザキさん?」
「あそこの自販機で水買ってくる。お前、水分取った方がいいから」
「え、あの、俺、自分で行くっす」
「いいから」

たまたまそこにあったベンチに無理やり椿を座らせて、熱を持った顔を見られる前に踵を返して自販機に向かう。
水を椿の分と自分の分とを買って戻ると椿が目を瞑ってた。おい、まさかこの短時間で寝落ちたんじゃないだろうな?

「椿?」
「ふぇ…あ、ザキさん」
「おい、頼むからこんなとこで寝るなよ」
「寝てませんよ。空気がちょっとひんやりしてて気持ちよかったから…」
「なら、いいけどな。ほら」
「あ、すみません」

椿に渡したペットボトルはかいがいしくも蓋まで開けてやった状態だ。他の誰かが相手だったらこんなことまでしてやらない。それ以前に連れて帰ったりしないけど。

「はぁ…」
「すげー勢いで飲んだな」
「あ、すみません!なんか喉渇いてたみたいで」
「別に謝んなくていいけど」
「そ、そですよね、すみま、あ」
「ばーか」

言ったそばからまた謝る椿の頭を小突いてやる。ザキさんひどいっす、と椿は水を飲んでしゃきっとしたのかと思いきや何故か舌っ足らずになってる。おい、なんでだ。

「早く戻って寝た方がいいな」
「眠くはないんすけど…」
「横になったら寝れるだろ。あと風呂は明日の朝にしろよ」
「え、なんで?」
「酔いが余計に回るだろ」
「そうなんすか?」
「そうなんだよ」

手がかかるとは思ってたけど、ここまでとは思わなかった。いままでの飲み会、こいつはどうしてたんだろうな…世良さんとか丹さんとかは酔っぱらってるイメージがあるけど、椿は案外、いつもはたいして酔わないでいるのかもしれない。…単に俺が気付かずにいただけかもしれないけど。

「立てるか?」
「はい」
「掴まる?」
「…はい」

ふわふわと笑う椿に手を差し伸べたら、すんなりと掌が重ねられた。ぎゅ、と握って腕を引っ張るとそれに逆らわず立ち上がる。

「ザキさん」
「なに」
「ザキさん、優しいっす」
「は?」
「今日、ザキさんが隣で、うれしかったから、ちょっと飲みすぎちゃいましたけど、こうやって連れて帰ってくれるし、やっぱザキさんは優しい人っすね」
「………」

何か、いろいろと、椿の言葉にはツッコミを入れたい気もするんだが、とりあえずひとつ言えるのは、俺は椿が思ってるみたいに優しくはないってこと。
こうやってこいつを寮に連れて帰ってるのだって、俺が優しいからとか、そんなのは大きな誤解なんだけど。

「ばか言ってないで歩けよ」
「ばかじゃないっすよ」
「はいはい」

酔っ払いの言葉をどこまで真に受けるか悩むところだが、俺が隣でうれしかったと言った椿の本意は、明日問いただそうと決めて残りの道を椿の手を引いて歩いた。





成分:下心




thx レイラの初恋





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