35年も生きてりゃそれなりにいろいろ経験を重ねていくというもので。楽しいこともあれば辛いこともある。どっちが多いかはその人次第といったところだけど。

恋愛について言えば―――いい年したおっさんが恋愛という単語を使うのも妙に照れくさいような気もしないでもない―――あんま辛いって思ったことはないなぁ。というか、悪く言えば淡泊というかドライというか、なんというか。ある程度割り切った関係ってのが少なくはなかった。そこそこの年になればなおさらな。

だから今頃になって恋愛に対して本気になって、俺ってば大丈夫だろうかと自分のことながらちょっと心配になったこともある。俺は自分のことを保守的な人間だとは思ってないが、惚れた相手が相手だから。いろいろと葛藤もあったけど、突き詰めていけば結局惚れた者の負けという奴で。いまさらなかったことにもできなくて、つーかなかったことにしたくもないし、吹っ切れた。
元々うだうだと悩むのは性に合わないんだ。玉砕覚悟で本気出していくしかないな、と気合を入れたのもいまじゃいい思い出だ。

とはいえ、力技でゴリ押しするのも趣味じゃない。向こうも俺を悪く思ってないのは知ってた―――あくまでも尊敬とかそういうものであって、恋愛感情ではないとわかってる―――から搦め手で攻めてったんだけど。でも好きになった相手はフットボール好きのガキがそのままでかくなったような奴で、思わずお前ソレでいいわけ?と聞きたくなるくらいに奥手で鈍感でお子ちゃまだった。長期戦は覚悟の上、でも下手したらこっちのアプローチに全く気付かれずに時間だけ浪費するかも、と冗談抜きに考えた。告白にすら状況を持っていけないとかどーするよ、と悩みながらもそれでもじっとしてられないからそれとなく囲い込み作戦に出たら、あっさりと向こうが落ちた。

それはもう、あっさりと。というかあれ、俺は何もしてないに等しいよなぁ。あいつが勝手に落っこちたって感じ。

俺の部屋での個人反省会が終わった後でただ雑談してたとき、ぽろっとあいつが『俺、監督のこと好きですよ』なんて言って、あーその”好き”が早く俺と同じ意味の”好き”になんねーかなぁ、なんて考えながらふと視線を向けたら。あんま物事に動じない―――と、自分では思ってる―――俺がびっくりして固まるくらいにあいつが真っ赤な顔して固まってた。どうした、大丈夫か、と声をかけてあいつの腕に触れたら大袈裟なくらいに体を震わせて、いよいよ泣きそうな顔をしたから、もしてかして、と。

勘は悪くない。個室にふたりきり、だなんてまるで用意されたような状況。ここまで整った環境で尻込みするほど俺はヘタレじゃねぇよ?やるならいまだろ、てことで逃げ腰になってたあいつの腕を掴んで、まっすぐに見つめた。

『俺さ、お前のこと好きなんだけど』とストレート極まりない言葉を伝えれば、とうとうあいつは泣き出した。ウソだ、とか、冗談はやめてください、なんて可愛い泣き顔で可愛くないことばっか言うから実力行使しかないなって、両腕引っ掴んで勢いのまま唇を塞いだ。いままででいちばん近い距離で見たあいつの黒い目がとてもきれいだと思ったのを覚えてる。

搦め手がどーのとか言ってたくせに結局コレか、と思わなくもないが、結果オーライ。俺の言葉がウソでも冗談でもないとはっきりわからせてやると、あいつはますます涙を溢れさせて俺の肩に寄りかかってきた。

予想をはるかに超えた展開を経て、この日俺と椿は恋人同士になったわけだ。



「…監督?」
「んー?」
「あの…何スか?」
「何がー?」
「何かは俺が訊いてるんですけど…。あの、俺の顔がどうかしましたか?」
「今日も可愛いなぁって思って」
「―――っ!?」
「お、まっかっか」

恋愛に不慣れな椿は可愛いだの愛してるだのと言うとすぐ赤面して声を失う。いい加減に慣れたら?と思うけど、いつまでも慣れないから椿だとも言えるよな。

俺がそれ以上何も言わずにじっと見つめる先で、おろおろと狼狽え、うろうろと視線をさまよわせ、そわそわと落ち着かない。

「―――、ぶはっ」
「!? なっ、なん、なんですか!?」
「いや、うん、やっぱ最高だわ、椿」

挙動不審極まりなくとも愛しく思えるのが恋愛の威力ってものか。本気で好きだからちょっとしたことでこんなにも"好き”が増える。俺を構成する要素が目に見えるようになったら、椿と椿に関わるもので埋め尽くされてんじゃねぇのかなぁ。
冗談抜きに、俺はこいつがいないと病気にでもなって死ぬんじゃない?

「椿ー」
「は、はい!?」
「愛してるぜ」
「―――!!??」
「ぶっ!! どれだけ赤くなるんだよ!」
「っう、あぅ、おっ、俺…!」
「ん?」
「俺、も、達海さんのこと、愛して、ます!」
「………」

これだから…これだからこいつはなぁ〜。

「椿ーぃ」
「は、はい?」
「いま俺が死んだら、お前のせいね」
「はっ!?」
「ニヒー」

甘く楽しい恋の病ってのも、なかなかいいもんじゃない?





甘楽ラブック




thx 箱庭





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