「あ、やべ…」
「え、わ…っ」

四角い箱の中で繰り広げられるゲームに夢中になっていると、つい手にしていたものの存在を忘れ去っていたらしい。
ふわふわのパンの間から零れたハチミツが指を伝う感触に声をあげると、隣に座っていた椿も慌て始めた。

「いやいや、お前がてんぱる必要ないでしょ」
「う、そーですけ、ど。あっ、あの、監督、さらにひどいことに」
「ありゃりゃ」

思いの外たくさん入ってるらしいハチミツが指どころか手首にまで伝ってきた。

「うぇー、ベタベタする」
「洗いに行ったほうがいいっスよ」
「んー」

とりあえずの応急措置、てことでべろりと舐めてみる。甘い。当たり前か。ハチミツだもんな。

垂れて流れたものを舐めとり、発生元のパンをまるごと口に入れてしまう。
一口サイズよりも大きいから少し苦しい思いをしながら噛んでいると、あ、と椿が呟いた。

「ん?」
「まだついてます」
「んー?」
「あ、動かないで…服についちゃいますよ」

じっとして、なんて子供に言い聞かすようなことを言いながら椿の指が手の甲に触れる。
ぬるり、とした感触はハチミツのものだけど、ピリッと電気が流れたような感覚もまた、間違ってないはずだ。

「けっこう食べにくいパンですね」
「うん。かもね」

ようやく塊を飲み込んで、赤い缶に手を伸ばす。
馴染みのしゅわしゅわした炭酸が弾ける。でもこんなもので誤魔化せるもんじゃない。

「椿も手、洗わないとね」
「いいですよ、これぐらい。舐めれば大丈夫っス」

そう言って口に含まれる指先。赤い唇、その中で指に絡まる舌。その熱を。
俺は知っていて、そして―――。

あぁ、もうダメだな。

「? かん、と」
「しー…」

大きな黒い目がますます大きく見開かれる。実はこの瞬間がけっこう好きだ。

ぺろ、と舌を這わして、少しだけ開いたままの唇を割って中に侵入させた。
びくりと震えて反射的に後ろに下がる体を腰に手を回すことで留めて、ついでに首の後ろから後頭部を支えてさらに密着させる。

息が苦しいのか、椿はきつく目を瞑る。でも離れようとはしないし、おずおずとだけど小さく舌を絡めてくる。

かわいい、いとしい、あまい。

あったかくて柔らかいそこを存分に楽しんで、少し名残惜しいから最後に唇を軽く噛んだあとでようやく離れた。

「…っは、ふ…、」
「あまい、な」
「ハチミツ、ですもん…」
「違う。椿だからだろ」

何ですかそれ、と口ではなく問いかけてくるのはその目だ。

苦しかったからか、それとも別の理由からか、薄く潤んで揺れるそれがとろとろのハチミツみたいで甘そうで、味見したいなぁと思いながら目尻の雫を舐めとった。





スとハチツの癒着




thx 空想アリア





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