視界がぼやける。自分が泣いているんだとそのとき初めて気付いた。悲しいからでも、辛いからでもない、ただ勝手に溢れて流れた涙を上から覆いかぶさってくる相手が指先で拭った。そのままその手がこめかみあたりの髪に差し込まれ、ゆるゆると髪を梳かれる。気持ちよくて目を細めたら目尻にたまっていた雫がまた零れた。

「頭、撫でられんの好きだよな」
「…気持ちいい、んで…」
「そんな顔してる」

かわいい、と男に言うことじゃない言葉でも、監督からもらうと胸の辺りがきゅう、となる。うれしい、とは思わないけど…恥ずかしいというか、照れるというか。

「またそういう顔してー」
「どんな、顔っす、か…」
「すっげ可愛い顔。食べちゃいたくなるような」
「…っん」

そう言って監督が頬に唇を寄せる。軽く触れる柔らかい感触は、徐々に位置を変えて耳元に辿りついた。

「っひ、あっん!」
「ふ、いい声」

もっと聞かせて、と囁かれ、さらに肌が粟立つ。俺の反応が楽しいのか、監督は耳たぶに歯をたてたり、舌先で舐めたりと刺激を緩めてはくれない。

首から背中へとぞくぞくと伝い落ちる感覚が、じんわりと腰のあたりにたまってくる。熱を持って疼くことを知っている俺は、でもどうすることもできずに監督の腕に小さく爪をたてた。

「おねだり?」
「ちが…っあ、やめてくださ、」
「やーだよ」

くつくつと笑う声ですら刺激となって俺の体をじくじくといじめていく。熱はたまる一方で、でもそれを持て余して、ますます視界が歪んでいく。

「食べちゃおっかなぁ…」
「んっ、ん…っ、ダメ、です、もう…」
「それこそダメだろ、椿。もう止まれないのはお前の方だろ?」

髪を梳くのとは反対の手が粟立つ肌を滑っていく。汗ばむ肌が監督の手が触れたところからまた熱を放つ。爪をたてたところでその腕の動きが止まるはずもなく、もう何度も昇り詰めては果てた箇所に触れられ、体が跳ねた。

「…若いねぇ」
「…ふぁ…っ」

もう、どんな顔をしていいのかわからないし、きっとにやにやと笑っているだろう監督も見たくないから、肩に額を押し付けて目をきつく瞑る。吐き出した息とともに漏れた声が自分のものと思えなくて、耳も塞いでしまいたかったけど、それは叶わなかった。

「こうもいい反応されるといろいろとがんばりたくなっちゃうよなー、オジサンは」
「…がんばんなくて、いいです」
「淋しいこと言わないでよ」
「も、監督、それ以上言わない、っあん!」
「じゃあ椿ががんばってくれる?」
「っ、んなわけ…あぅっ」

いちばん強い刺激が与えられ、仰け反る。聞きたくもないのに濡れた音がして泣きたくなった。

「声、我慢すんなよ」
「ん、うっ、ヤです…ぁ!」
「だったら出させたくなるのが人情っつーか」
「ひっ、あっ、あぁっんんっ」
「ほら、いい子だから」

ぐちぐちという音に追い詰められる。監督の手も遠慮ない動きをするからどんどんと昇り詰めるしかない。逃げ道なんて当然残されてなくて…というか最初から与えられてないけど…。

「椿、わかる?こんなになってんの。イヤイヤって言いながらお前も結構好きだよねー?」
「う…っ」

ほら、と見せつけられた監督の指はぬらぬらと濡れて光る。何で濡れてるかなんて考えたくもない、言いたくもない。

「っも、監督…っ」
「我慢してもいいけど、お前が辛いだけだかんな?」
「ぁ、…っ」

濡れた指が頬を伝い、唇にまで届く。下唇をなぞられ、ついぱくりと指先を口に含んでしまった。

「お」
「…っ!」
「おっ前…ほんとときどきびっくりすることしてくれるよね」
「ん…」

目を丸くする監督がめずらしくて、ちょっと仕返ししたい気持ちもあったから咥えた指に舌を這わした。奥まで咥えて指と指の間も舐める。そんなことをしてるうちに監督が指を動かして舌を押さえたり撫でたりするから、余計に変な気分になった。

「椿」
「?」
「触ってないのに勃ってんよ?」
「…っ」
「ま、俺も人のこと言えないけどなー?」
「っぷ、は…!」

ちゅぽ、と恥ずかしい音をたてて指が引き抜かれた。してるときよりいまの方がずっと恥ずかしい…なんでだろ。
監督を窺うと、いつもの人の悪い笑みを浮かべてこっちを見ていた。

「煽った責任は取れよ、椿」
「…煽ってなんか、ないです…」
「は、そーかい」

ニヤリと笑う監督の首に回した腕を引き寄せ、近付いた唇に自分のどろどろに濡れて汚れたそれを重ねる。唇と唇、舌と舌。粘膜同士が擦れて気持ちいい。

自分の体力とか体調とか練習のこととか、もう何もかも考えることを放棄して、目の前の衝動に身を任せることにした。





汚れた唇で存在




thx 空想アリア





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