あまり物事に執着する方でない俺がめずらしく気に入って買ったソファー。座り心地はいいけど、それ以上に隣にいる存在。彼が俺の心を捉えて離さない。

俺より小柄だけどプロのサッカープレイヤーらしくちゃんと鍛えてある体は、最初の頃に比べればずいぶんと固さも抜けてリラックスしているようだ。適当に点けたテレビの画面を至極真面目な顔で見ている。何の番組かは知らないけど、飽きないんだろうか。そういう俺はそんな彼を飽きもせずに眺めてる。あからさまに見つめると緊張してビビりまくるから、さり気なく。テレビ見てる振りして。…何やってんだろうねぇ、俺。

「…持田さん?」
「ん?何、椿くん?」
「いえ…どうしたのかなって…」

何が?と無言で問うように首を傾げると、隣の彼も少しだけ首を傾げる。

「俺の顔、何か付いてます?」
「目が2コ、鼻と口が1コ」
「…」
「あと眉毛」
「…何も考えてなかったんですね」

ため息混じりにそう言って椿くんはまたテレビに視線を移した。呆れたというような言い方をするくせに、目許が少し赤い。照れてるのを隠そうとしてるのに全く隠せてない椿くんが可愛くて仕方ない。弄ってくれと言ってるようなもんだよね。そして俺はこんなときを見逃すほどおめでたくない。

「ひどいなー。ちゃんと考えこともしてたよ?」
「…っ」
「椿くんのこと」
「ん、」

薄く染まる目許に指先を滑らせると、反射的に肩を竦ませて目を瞑った。抵抗のないのをいいことに、そのままゆっくりと肌をなぞっていく。
毎日陽の下にさらされてるくせに、肌理が細かくて綺麗だ。別にたいしたこだわりがあるわけではないが、どうせ愛でるなら触って楽しいのがいい。肌そのものもだけど、返される反応とかも込みで。

目を瞑ってじっとしてる椿くんは、おとなしくしてるというより下手に動けなくてずーっとビクビクしてるらしい。表情が強張ってるし、肩に力が入りすぎてる。だいぶ慣れてきたとはいってもやっぱり椿くんは椿くんだ。本人はどう思ってるか知らないけど、こんな態度されたら放っとけないもんなんだけど。

下睫毛の生え際ギリギリのところを指先、というか爪の先でなぞると彼の体がばっと離れた。

「逃げないでよ」
「逃げますよ…!」
「怖かった?」
「普通、目を狙われたらビビります…」

ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら椿くんは俺との間に距離を置く。ふたりで座るには広いソファーだから思いの外スペースを空けられてしまう。
…ちょっとムカつくなぁ、この反応。逃げられると追いかけたくなるんだけど。

「…持田さん」
「何ー?」
「何でこっちに寄ってくるんですか…!」
「だって椿くんがそっちに行くから」
「俺のせいですか!?」
「そーだよー?」

じりじり、じわじわ。言い表すならそんな感じだろうか。ソファーの端まで行ってしまった椿くんはそれ以上には下がれないと気付くと、少し顔色を青くさせた。なかなか失礼じゃない、ソレ。

「つーかまーえたー」
「わっ、わ、あ…」
「ハイハイ、無駄な抵抗はやめなさーい」
「…しませんよ、もぅ…」

これ以上ないところまで追い詰めて、しっかり目を合わせてニヤリと笑ってみせると、椿くんはまたため息混じりに諦めたように言った。ただし、少しだけ笑いながら。

「持田さんには、勝てません」
「そう?」
「勝てそうって思えることもないですよ…」
「ふぅん?」

サッカーで負けるつもりはさらさらないけど、私生活では結構椿くんには勝てないなぁと思うこともあるのに、彼は俺に勝ってるとは思わないらしい。ま、わざわざこっちの負けを告げる必要はないよな。

「素直な子は好きだよ」
「そうですか。俺、意地っ張りで頑固ですよ」
「うん、知ってる」

チキンでビビリな椿くんがときどき見せていた強気なプレーは、やはり彼の本質に変わりはなくて、付き合いが深くなればなるほど隠れてたところが見えてきた。意地っ張りも頑固も、椿くんなら愛しく思えるのだから不思議なものだ。

「そういうところも好きだよ。知ってるでしょ?」
「…恥ずかしいこと、よく言えますね…」
「好きだからね。椿くんは?」
「…好きです、よ」

真っ赤になりながらもきちんと答えてくれる椿くんが好きだ。意地っ張りで頑固でもやっぱり素直さがいちばん大きい。若いからかなぁ。うん、いいね。育てがいがあるってのもさ…楽しみが大きくて。

ますます赤くなった椿くんの頬に唇を寄せる。リップ音をたてて何回も繰り返すと、手が肩に置かれた。首に回せばいいのに、と思いながら唇にキスすると、するりと腕が回される。ちょっと気を良くしてると、椿くんが目を開けた。

「持田、さん…?」
「んー?」
「どうかしました…?」

なんかさっきも似たようなやり取りをしたなぁ、なんて思ってたらまた少し笑えてきた。

「椿くんが、好きだなぁって思ったら微笑ましくなった」
「…俺、ときどき持田さんのことがわからなくなります」
「そ?じゃあわかり合えるようにもっと仲良くしよっか?」

いちゃいちゃとかね、と耳元に囁くとビクッと体を震わせる。休日にソファーでこんなに密着してちゅーだけで終わらせるわけないじゃん。

「も、もち、ださ…」
「我慢できるはずないでしょ?」
「う、」
「ね、しよう」
「ん、ぅ…」

今日の中でいちばん深いキスをすると、おずおずとだけど椿くんからもアクションが起きる。伸ばされた舌を軽く吸って歯をたてると、ぶるりとまた震えた。

怖い?
快感にも臆病だからね、君は。

でもすぐに怖さなんてなくなってしまうって知ってるよね?

うっすらと水の膜の張った瞳の奥が、とろりと蕩けているのを俺は見逃さないよ。





いちにのさんで
法にかかる













つい先日、誕生日プレゼントをくださったまきさんに何かお返しを…というわけで、まきさんもお誕生日が7月ということで(半ば無理やり)リクエストを頂いて参りました。
甘い…モチバキ…です…。
力不足は否めませんが、お祝いしたい気持ちはいっぱいです!
Happy Birthday!!



thx 獣






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