▼ Happy day with you!



* タツバキ + 椿愛され気味












それは、一年で一度だけの記念日。

大人になれば段々と、流れる日々の中に埋もれていってしまいそうになるけれど、それでも大切な日に変わりは無い。

自己満足かもしれない。余計なことだと怒られるかもしれない。

常の自分なら、色々な考えが頭を過って、迷ってしまっただろう。

だけど今回ばかりは、そうもいかない。

迷う自分は、少しだけ振りしぼった勇気で心の奥底に留めて。



「…よし。」



今日は大事な人の、大切な日だから。















きっかけは、とても些細な偶然だった。



「あ、そういえば今週達海さんお誕生日だわ。」



用事があって訪れていたクラブハウスの一室で、有里さんが漏らした言葉に、「え?」と思わず反応してしまった。持っていたものを落としそうになるのをなんとか堪えてホッと息を吐けば、俺の声に顔だけこっちに向けてくれた有里さんが、小さく首を傾げる。



「どうしたの、椿君。」

「え、あ、い、いえ…っ、その、今、」

「相変わらずおどおどしてるねぇ…。」

「う…。」



俺を見ながら苦笑した有里さんが、ペラペラと捲っていた机の上の書類らしきものを閉じる。その一連の動きを見ながら俺は、さっき聴こえた言葉がどうしても気になって、その場を去ることも出来ずにソワソワといつも以上に挙動不審に視線を揺らした。だって、だって、さっき、聞き間違いじゃなかったら…。



「あ、の…。」

「ん?何か問題あった?」

「いえ…!あの…さっき、有里さん、達海さんの…。」

「…?」

「誕生日って、言わなかったっスか…?」

「…ああ!そうそう、そうなんだよね。そういえば今週の土曜日、達海さん誕生日だなぁって、カレンダー見てて気付いたの。」



今週の土曜日…?

壁にかかってるカレンダーに思わず目をやる。そんなまさか。そういえば俺、監督の誕生日だとか血液型だとか、そういうことを全く知らない。改めて気付いたその事実があまりにも衝撃的で、目を見開いたまま固まってしまって、「椿君?」と有里さんが声をかけるのにもなかなか反応出来なかった。椿君、と有里さんがそんな俺にもう一度声をかける。



「う、あ!」

「どうしたのよ、もう。」

「え、えっと…スンマセン、…!」



とりあえずペコリとお辞儀して、部屋を飛び出すように後にする。「椿君にはもっと会話のキャッチボールを覚えさせる必要があるわ…。」と有里さんの呟いた声も、今の俺には聴こえなかった。誕生日、誕生日。その単語だけが頭の中をぐるぐると回る。監督の、誕生日。本来なら、別に知らなくても普通なのかもしれない。もう成人した男だし、ましてや監督はもうそんなの気にするような年でも無いのかもしれないし。自分のチームの監督の誕生日を、知らないといっても特に問題は無いだろう。だけど。



俺の勘違いでなければ、俺と監督はいわゆる恋人同士なわけで。

























「…それで、僕のところに駆けて来たのかい?」



柔らかい声が降って来る。向かいに座った王子が、ゆっくりと足を組み直すのが、落とした視線の先に少しだけ見えた。



「…ウス…。」



コクンと頷くと、少しだけ無言が落ちて、少ししてふっと王子が小さく息を吐く音が聴こえた。

ため息のようにも聴こえるそれは、けれど決して責めたり呆れたりするようなものではなく、俺は恐る恐る顔を上げて、王子の方を見た。



「そう…タッツミーのバースデーか。」

「らしいんスけど、俺全然知らなくて…。」

「まぁ、自分のことをあまり話すようなタイプではなさそうだからね。」

「…ッスね…。」

「なるほど。それでバッキーは、どうしたらいいか分からなくて悩んでいる…と。」

「今週の…土曜日らしいんで、もう日付もなくて。練習もあるからそんなに用意出来そうにもないですし…。」

「とりあえず、悩み事を一番に僕に話そうとしてくれたその忠犬精神は褒めてあげるよ。」

「ほ、他に頼れる人が、いなくて…。」



大体、いい年した男が誕生日云々で悩んでるなんてそう言えるものでも無いわけで。これでも王子に話すのも相当迷った。けど、一人で悩んでいてもなかなか答えが出ず、過ぎて行く時間に焦るばかりだったから、結局練習終わりに勇気を出して王子を引きとめた。俺からこんな話を持ちかけること…それどころか、練習の後はすぐにシャワーを浴びたいと常時豪語している王子の帰宅を妨げること自体相当珍しいことだったから、最初は驚いたように首を傾げながらも事情を聞いてくれた王子は、そうだね、と小さく呟いてしばし沈黙を落とす。何だか俺の方が意味無くドキドキしてしまって、それこそ犬と称されてもおかしく無いくらいの大人しさで、睫毛の影を顔に落として黙り込む王子の姿を見上げた。



「君は本当に健気で可愛いね、バッキー。」

「へ!?」



すると返って来た言葉に、思わず変な声が上がる。ふわりと笑みを浮かべる王子は、子供に言い聞かせでもするようにこちらに伸ばして来た腕で俺の頭を撫ぜながら、ゆっくりと言葉を続けた。



「でも、真っ直ぐ過ぎて大切なことを見誤っちゃいけない。」

「大切…な…?」

「そう。大事なのは、君が自分で考えたという事実だよ。」

「…?」

「タッツミーもきっと、それを一番望んでるはずさ。」



王子の言ってることは俺にはたまによくわからなくて、首を傾げるしか出来ないけど、適当にはぐらかそうとしているわけでもなく、どうやら本気で考えてくれた結果なのだろうということはその瞳から読み取れた。でもやっぱり、良く分からない。それが俺の顔に出ていたのか、クスリと王子が小さく笑う。



「でもアドバイスをするなら、そうだね。」



長い人差し指を立てて、くるりと一度宙に輪を描く王子の様子を自然と目で追った。



「君は君らしくいるのが一番だと思うよ。」

「俺、らしく…?」



確かめるように問いかけると、頷いた王子が再び俺の頭に手を乗っけて、今度はさっきと変わってワシャワシャと本当に犬にするみたいに撫でる。それがなんだかくすぐったくて頭を下げたら、旋毛の上で笑われる気配がした。



「自分の飼い犬の成長を見るのは喜ばしいことだけど、僕の可愛いバッキーが、他の男のために奮闘してる姿を見るのは何とも言い難い心境になるね。」



またそんな風に、王子がいつもように冗談を言って笑う。























「ザキさんと世良さんだったら、どうしますか。」



引きとめた二人に、王子にしたのと同じ話をすれば、それはもう三者三様の反応が返って来た。



「へー。監督誕生日なんだ。」

「興味ねぇ。」

「そ、そう言わずに…!」



案の定ザキさんはちょっと不機嫌そうに肩を竦めてたけど、世良さんから飛んでくる明るい声に何とか心を奮い立たせて、どうやって祝ったらいいのか迷ってると告げれば、またあからさまにザキさんは眉を寄せる。変わりに、うーん、と明るい声を漏らした世良さんは、ザキさんとはまた違った意味で眉間に皺を寄せた。



「大体、大の男が盛大に誕生日祝われたって反応に困るだろ。」

「えー?俺は結構嬉しいけどなー。」

「それは世良さんが子供だからじゃないっスか。」

「あ、赤崎…お前…ほんっと可愛くねぇな…。」

「男が可愛いとか言われても。」



完全に話が逸れて、何やら不穏な空気を醸し出す二人におろおろしていると、ブルブル体を震わせていた世良さんが、ガバッと顔を上げて、俺の方へと勢いよく向き直った。



「椿!」

「ウ、ウス!」

「な!椿も嬉しいよな!」

「へ?」

「誕生日!祝ってもらえたら嬉しいよな!」



な!と同意を求めるように必死に縋ってくる世良さんの迫力に押し負けて、無意識にコクコクと何度も頷く。それに表情を明るくした世良さんが「ほら見ろ赤崎!」と得意げに声を上げるのを、重いため息をついたザキさんが呆れたような目で見る。



「アンタ等本当揃って本当お子様だな…。」

「なにおう!?赤崎お前やっぱちょっと生意気!つーかだいぶ生意気!!」



ぎゃあぎゃあ言い争う二人に口を挟むタイミングを失う。だいぶ話が逸れてる…。なんで監督の誕生日話からこんなことになってるんだろう…。



(ザキさん、誕生日嫌いなのか…。)



確かに、人にお祝いされて無邪気に喜んでるザキさん…は、ちょっと想像出来ない。けど。



「…じゃあザキさんは、誕生日祝われんの嫌っスか?」



ぽつりと呟いた言葉に、騒がしく言い争っていた世良さんとザキさんの動きがぴたりと止まった。



「え、」

「さっきから聞いてて…嫌いなのかなって…。」

「…別に、嫌いとは言ってねぇだろ。」

「…そうっスか。でも、」

「ちっち、椿違うって、コイツは誕生日が嫌なんじゃなくて、椿が監督の、――っが!」

「せ、世良さん!?」



なんか今、凄い音したような…!



「…あー…悪い、世良さん。頭とボール見間違えた。」

「わあ赤崎クンフットボーラーの鏡!……………じゃねぇよ!赤崎お前一回頭見て貰って来た方がいいんじゃない!?」

「だから謝ってるじゃないすか。」

「……。」



思いっきり顔を歪めた世良さんが何か言いたそうに口を大きく開いたあと、そのままの勢いで小さくため息をついてから、ゆっくりと頭を擦りつつ、俺の方に向き直った。



「それで?」

「え?」

「それで、王子はなんて言ってたの?」



それが、最初の話題のことについてだと気付くのが少し遅れた。



「…え、…あ、俺は俺らしく、って…でもなんか意味がわからなくて。」

「ああ、そういうこと!…うん、そうそう、椿は椿らしく、で俺もいいと思う。な、赤崎!」

「…まぁ。」



相変わらずザキさんは興味なさそうにしてたけど、何を納得したのか、世良さんはうんうんと深く頷きながら笑う。



「…ありがとうございます…?」



結局答えは見つけられないまま。

とりあえず満足そうに笑う世良さんを見てたらそれ以上何も言えなくて、ペコリとお辞儀をして離れることにした。



「あ。」



ふと思いついて、くるりと一度振り返ると、ザキさん、と名前を呼ぶ。



「じゃあザキさんの誕生日も、嫌じゃなかったらお祝いします!」









「…。」

「…。」

「赤崎さー、もっと素直になればいいのに。」

「…どういうことっスか。」

「監督のことばっか椿が気にしてんのが、面白くなかったんでしょ。」

「は!?」

「赤崎の誕生日もお祝いしてくれるってさ。よかったねー。赤崎。」

「だ…っち、…違いますから!そういうのじゃ…!」

「あーあ、お前も辛いねぇ。」

「だから違いますってば!」

























「あ。」



目の前を歩く背中を見つけたのは偶然だった。そして声をかけたのも、俺にしては相当珍しいこと。そんなに切羽詰まってるんだろうか。…うん、確かに結構切羽詰まってるかもしれない。だってさっきから誰に聞いてもいまいちよくわからない返答しか返って来なくて、寧ろ最初よりもずっと色々と迷路に潜り込んでしまっている気分だった。だからだと思う。



「む、村越さん!」



そういえば俺、前もこんな風にこの人にビクビクしながら声かけたなぁ…。そんなことを考えながら、振り返る威圧感のある瞳に、相変わらず思わず背筋が伸びる。



「…椿か。」

「ウス…。」

「…俺に何か用でも?」



端的に返って来る返事に竦む全身を何とか叱咤して、迷った末にそれはもう途切れ途切れに、監督の誕生日について迷ってる、と告げた。



「…お前も相変わらず物好きだな。」

「う…。」

「お前、いろんな奴に色々と聞いて回ってるみたいだな。」

「え?」



聞けば、どうやら俺が監督の誕生日祝いを考えるために奮闘していることがこっそり噂になってるらしい。確かに王子や世良さん、ザキさんに話を聞く途中に、見る人会う人に多かれ少なかれ話を聞いた…ような気が。



「あ、あの…。」

「…背伸びしても、いい事は無い。」

「え?」

「目に見えるものが欲しいというような男には見えないけどな。アイツは。」



…。

アイツ、というのが誰のことを差しているのかはさすがの俺でも分かったけど。



「後は自分で考えろ。」



そう言って去っていく村越さんの背中を見ながら、とりあえず更に頭が混乱しそうになってるのは分かった。























…この人暇なのかな、とたまに思う時がある。



「椿君って暇なの?」



それは俺が聞きたいです。

…聞けないけど。



「…なんで持田さんがここにいるんですか…。」

「俺がどこにいようと俺の勝手じゃない?」

「まぁ…そうなんス、けど…。」



確かにそうだけど、そうなんだけど。さすがに自分のクラブハウスの前にいて、俺の通り道を脚で思いっきり塞がれると、流石にはいそうですねとは言えないんですけど。でも余計なことは言えない。なんか相変わらず恐いし。フードの中から見える目は、いつもの獰猛さはさすがに含んでいないとはいえ、やっぱり相変わらず笑っていてもなんだか恐い。軽い様子で俺を引っかけるかのごとく出していた足を引っこめた持田さんが、「こんなところで何してんの?」と俺を見た。



「…何してるって…ここ、ETUの…。」

「それはわかってるってば。」

「じゃあ…?」

「だから、なんでそんな変な顔してうろうろしてんの?って意味。」

「変な顔…?」

「まぁ、椿君は元から面白い顔してるけどね。いっつも。」

「…。」



まぁ、締まった顔してるとは言われたことはないけど。でもそうはっきり言われると…何とも。しかも持田さんみたいな人に。持田さんみたいなどこか迫力さも感じるような顔でもなければ、王子みたいに華がある顔でもない、典型的な日本人の顔をしてる俺の顔は、面白いとも言えるかどうか不思議だ。疑問符を浮かべながら瞬きを繰り返していると、肩をすくめた持田さんがゆっくりと俺の前に立ち塞がる。だからどうしてこの人はこんなところにいるんだろう。



「で、何してんの?」

「……えっと、」



さすがに、監督の誕生日について悩んでました、なんて言えるわけがない。



「ちょっと考え事を…。」

「あっは、椿君って年中何か無駄なことで悩んでそうだよね。」

「む、無駄って…。」

「だってそうじゃん?なんか思ってることの半分も口に出してなさそう。いっつも俺みておどおどするし。」



持田さん見て堂々としていられる人の方が少ないと思うんですけど…。



「その割には、馬鹿みたいに一直線だから、よくわかんないよね。椿君。あ、馬鹿の一つ覚えってやつか。」



一直線…。

(馬鹿の一つ覚え…か…。)

確かに俺には、一直線に真っ直ぐ走ることしか出来ないかもしれない。持田さんの言葉に、ふと気付いて小さく頷いた。



「ところで椿君、俺暇なんだけど、」

「あ、」

「…あ?」

「ありがとうございます、持田さん!」



なんとなく答えが見えた気がして、思わずあんまり上げない大声を張り上げてペコリとお辞儀をする。持田さんの声が聴こえる前に踵を返して来た道を戻った。少しだけそわそわと足が浮足立つ。さっきまで、まだ来るな土曜日と唱えていた呪文が、早く土曜日になればいいのに、に変わる。こういうところ、確かに一直線だと言われても仕方が無いのかもしれない。



(俺は俺らしく…。)





「…あーあ、振られちゃった。」



肩を竦める持田さんの、椿君の癖に、と呟いた声は走る俺には聴こえなかった。



























当日は、いつも通りに練習だった。



試合も無いから、夜までみっちり練習。練習前の監督はどこにいるか分からないから捕まえることは難しいし、練習中はさすがに言えない。

だから、いつも通り流れる時間。練習に身が入らないとまでは言わないけど、それでも気になることは確か。

いつもと変わらない監督。もう、有里さんとか後藤さん辺りはお祝いをしたのかもしれない。そう思うと逸る気持ちもあるけど、焦らない。俺は俺らしく、お祝いするって決めたんだから。

そんな風に自分に言い聞かせる。途中王子が、「悩み事は解決したかい?」とこっそり聞いて来てくれたことに小さく頷いたやり取りがあったこと以外は、本当にいつも通りだった。



「うーっし、じゃあ今日はこれで終わり。」



その声に、ハッとする。基本的に気まぐれな監督は、見る時はいろいろなところで見るのに、見ない時は本当に見当たらなくなってしまうから、一度声をかけて早く着替えたら、監督に――…。そう考えてきょろりと辺りを見渡せば、ゾロゾロ引き上げる軍勢の中に、お目当ての姿を見つけることが出来ない。



「あれ?」



…監督どこだろう。















「まさか見失うなんて…!」



バタバタ音を立ててクラブハウス内を走り回る。思い付くところは既にみたし、有里さんに聞いてみたけど知らないという。もう既に夜も更けていて、このままだと日付が変わってしまうかもしれない。お祝いどころか誕生日に話も出来ないなんて…と、最悪の想像をしてしまってサァッと血の気が引いた。どこを探してもいないなんて、まさか外に行ってしまったんだろうか。誕生日の日に。



(…誰かに、会う用事でもあるのかな…。)



嫌な想像ばかりがぐるぐる回る。それを振り切るように思いっきり首を振ってから少しだけ走る足を加速した。角を曲がって、顔を上げると、そこに。



「…あ!」



見つけた。



「…監督!」



見知った背中。ジャケットを羽織って、飄々と歩くその背が、俺の声に釣られるように振り返った。ホッと安堵に胸を撫で下ろす。どうやら、最悪の事態だけは免れたらしい。



「…どったの、椿。」

「あ、あの…!俺…!」



走っていたせいで乱れる息はなかなか収まらず、監督を前にして体を二つに折る。なかなか言葉が出てこない。一言、一言だろ。俺!そう何度も言い聞かせるのに、長時間全力疾走は予想外に堪えていたらしい。



「俺、」

「いいから、とりあえず落ち付け。」

「う、ウス…!」



パッ、と顔を上げて振り返った監督を見て、開こうと口を大きく開けたまま、俺は自分の目を疑った。



「え、」

「え?」



重なる声。見えるはずだった監督の顔は、思いっきり顔までかかる大荷物に隠れて隙間からしか見えなかった。色とりどりに彩色されたラッピングの被っているそれらは、どう見ても…。



「プレゼント…?」

「あー…そ。なんかね、今日俺めちゃくちゃモテんの。」



なんでだろうね、と他人事のように呟く監督に、唖然とする。



「あ、あの、俺、今日、監督、」

「うん?」

「監督、その、た、」

「た?」

「誕生日…だからじゃ…。」



俺の言葉に、監督の目が見開かれる。あ、珍しい…。そう思って見ていると、納得したような「あぁ、」と呟く小さな声が聴こえた。



「そういや、そうだったかも。」

「え!?」

「やー、この年になると、ついうっかり忘れるわ。うん。」

「……。」



まぁ、それはそうかも…。



「じゃあ、これは誕生日プレゼントだったのか。」



誰が渡したのか知らないけど、多分渡す時お祝いの言葉言われたんじゃないのかな。監督が聞いて無かったのか、それとも本当に誰も何も言わなかったのか、謎だけど。



「…もしかして椿も、それで俺のこと探してくれたわけ?」

「え、…あ、…ウス…、いち、おう…。」

「へぇ。」



ニ、と小さく監督の口元が緩むのが見えないけどわかった。あ、でも、俺。



「あ、俺…、その、」



プレゼントの山に隠れる監督を前に、後ろに駆け去りたい気分でいっぱいになる。



「あ、あの…急だったんで、プレゼント…用意、出来なくて、それで…。」



結局あの後考えたけど、“モノ”を渡すっていうイメージがなかなかつかなくて、何かを渡すことは諦めてしまった。俺は、俺らしく。そう言われた言葉を思い出す。だから。



「いろんな人に聞いたんスけど…大事なのはモノじゃなくて、伝えることだって…思って…。」



だから、と小さく呟いて、息を吸う。たった一言だけど。真っ直ぐに、その人だけを見て。



「お誕生日おめでとうございます、監督。生まれてきてくれて、ありがとうございます…。」



飾り気のない、俺らしいシンプルな言葉。だけど一番、伝えたいこと。今だけは目線を逸らさない。とはいっても、監督は山の向こう側だけど。…そう思っていたら、突然現れた監督の姿。ドサッと大きな音がして、その隣に小さな山が出来た。



「…あー…。」



ポリポリと、どこか視線を逸らした監督が、軽く頭を掻く。なるほどね、と小さな声に首を傾げる。



「…あいつら突然ぽんぽん押しつけてくるから何かと思えば…。」



そのなんだか微妙な表情に、何か間違えたかな…と思ったけど、その顔は、なんていうか…そう、いつもよりほんの少しだけ、恥ずかしそうに、見えて。



「監督…?」



首を傾げて監督の方を見たら、その照れたような表情のままゆっくりと唇の端がよくみる笑みの形に歪んだ。

そのまま伸びて来た手に、ぽんぽんと頭を柔らかく叩かれる。



「…貰えると思って無かったから、そのプレゼントが一番嬉しいよ。」

ありがとう。



その一言があまりにも温かくて、じわりと触れられたところから俺にも熱が移ったみたいに一気に顔中が熱くなった。



(ど、ど、どうしよう…、なんか俺の方がプレゼント貰った気分だ…。)





来年は忘れずに、この人をもっと喜ばせられたらいいけど、俺はきっとまた今年みたいに最後まであたふたしてしまうんだろうなとも思う。そしてそこまで考えて、そんな風に先の未来にも、自分の隣に、この人がいることを自然と想像してしまうことが恥ずかしくて、だけどそれ以上に幸せで。





「…お誕生日、おめでとうございます。達海さん。」





少しでも俺の幸せがこの人にも移ればいいと思って、もう一度そう呟いた。















Happy Birthday!!!

happy day!














Happy Birthday!! for しあこさん(´∀`*)!

いつも本当にありがとうございます!

沢山の感謝と大好きを込めまして!

しあこさんにいーっぱい幸せがありますように!



ささやかですが…><!

お祝いの気持ちだけは込めまして!









椿が皆にふれまわったから、監督のお誕生日を皆でお祝いしました。(笑)

お誕生日おめでとうの最初は椿がいいだろうってことで、王子のお触れにより皆「監督ー!ほいっ!」ってプレゼントを渡したため、監督は意味が分からず首をかしげつつ、自分の手の中に出来て行く山を見つめていたようです。





2011.07.02 篠崎屡架












毎度おなじみの篠崎るかちゃんが、誕生日になったとたんメールで椿愛され小説をくださいましたー!
私は、何回るかに泣かされるのでしょうか…(笑)
うっかり村越さんとかお願いしてたら本当に書いてくれましたよ!言ってみるもんですね←
でも誕生日プレゼントとしてもらえると思ってなかったので深夜に叫び声をあげたのはここだけの秘密です(^^)
本当にありがとうございましたー!


(私は彼女の誕生日にどうしたらいいのだろうかと今から震撼しております…)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -