「…っ、ヒ…っんっ」
「椿、声出せよ…つらいだろ」
「ん…っむ…っ」

シーツに縋り付く自分より小さい体は震えながらも頑なに首を横に振る。その方が楽になると何度言っても椿は声を出すことを良しとせず、ギリギリのところまで唇を噛み締めて耐える。濡れて充血し、ぷくりと腫れる唇がさらに痛々しいことになり、ときに自分で唇を噛み切ってしまうことも。
そうなる前に俺がこいつの唇を塞いで、声を抑える役目に回るようになったのはいつからか。

漏れる声が気になるのか、椿はなかなかすぐにセックスに溺れてはくれない。あげく唇を噛み切ると次の日には居たたまれなくなるのか、なかなか部屋から出てこなくなる。
俺としては椿に対しては申し訳ないことに早くこいつが欲しくてしかたないからがっつき気味になっちまうし、次の日に椿が体を休めるのはいいんだが、俺を部屋に入れようとしないからそれは困る。丸一日こいつの顔を見ずに過ごすとかありえねぇ。

ただ俺が椿の唇を塞いで声を隠してやると、こいつはすごく安心したように笑うんだ。最初は噛み締められた唇を解すためにしていた行為が、今では俺たちの間の約束事になった。これを境に俺たちは理性を手放す。

「椿、こっち向け」
「っは、ザキさ…」
「うん、いい子だ」
「っむ、ぅ、ん…!」
「ふ…っ」

唇同士をくっつけて、少し離して、舌で舐める。綻んで開く椿の唇に舌を這わして口腔内にもぐり込ませると、中を好きに蹂躙していく。
恥ずかしがる椿もキスにはすぐに溺れる。自分からは手もつなげないくせにこういうときのキスは積極的に動いてねだってくるものだから、こっちだって我慢が効かなくなって夢中でお互いに求め合うことになる。呼吸する暇すらもったいない。

「っは、はぁ…っ、ザキさん、くるし…!」
「まだ…、たりない」
「んっ、う…っ」

ぴたりと唇をくっつけると椿が舌を伸ばしてくるからそれを吸い上げて絡ませる。息苦しさに眉を寄せるこいつの表情を見逃したくなくてずっと目を開けてたら、視線を感じたのか椿も目を開けた。

「…っ、な、に見て…んっあ!」
「すげーイイ顔してっからさ…」
「っふ…、ザキさんは、やらしー顔っす、よ…!」
「ふん、そーかよ」

こいつもだいぶ言うようになったよな。まぁ、なかなかいい傾向だ。従順なのも悪くはないが、そればっかもつまらない。

「心配しなくてももっとやらしー顔にしてやるよ」
「ちが、俺じゃなくてザキさんが、あぅっ」

ダイレクトに快感を拾うところを刺激してやる。椿は少し強く扱くくらいがいちばん感じるらしい。遠慮のない手つきで喜ばしてやれば、ずいぶんと艶っぽい声をあげ始めた。ここまできたらもうあとは溺れるだけだ。

「やらしー顔してっぞ、椿…」
「あ、はぅ…っ、もっ、ザキさんっ」
「もっと声出してみな?」
「い、じわるっ、です…!」
「お前が、」

可愛いのが悪い、と言いかけて止まった。いや、声を奪われた。
荒々しく塞がれた驚くほど柔らかい唇によって。

「―――!!」

そのままぬるりと舌が入ってきて、声どころか理性までも奪われる。意識がとろとろに融けてしまうような感覚に身を任せた。

「…っ、やってくれ、る…!」
「ザキさんが、おしゃべりばっかするから…!」
「わかったよ、こっちに集中しろってことだろ?」

がぶ、と大袈裟に首筋に噛みついてやるとびくりと肩を震わせた。でもそれだけで制止の声はあげずに椿は俺の背中に腕を回してきた。

―――こうやってくっついてるうちに融けてひとつになれるかもしれない。

とうにまっとうな働きを放棄した脳みそはそんな夢想を作るけれど、すぐにそれすらも消えていった。





声舐めて抱き合って




thx 空想アリア





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -