「ざ、ザキ、さん。ちょっといいですか…?」
「…おぅ、入れよ」
夜遅い時間に自室のドアが叩かれ、こんな時間に誰だと少々眉間に寄る皺を自覚しながら開けると、思ってもみなかった相手に面食らった。
しかし緊張のために揺れる瞳で見上げてくる椿に動揺を知られたくなくて、すぐに身を翻して招き入れる。
おじゃまします、と律儀に言いながら入ってくる椿にばれないように小さく深呼吸。あー、クソ。なにテンパってんだ、俺。
「何か飲む?」
「え、あ、はい。えと…」
「コーヒー…は、夜だしダメか」
「大丈夫っスよ。いただきます」
「ん」
コーヒーっていったってただのインスタントだ。粉に湯を注いで終わり。自分のはそのまま、椿の分は牛乳を多目に入れてやる。
「ほらよ」
「ありがとうございます」
ベッドに座る椿にマグカップを渡してその隣に座る。二人分の重みを支えてギシリと鳴る音にまた心拍数が上がる。…ッチ。
「こんな時間にどうしたんだよ」
「っあ、あの…げほっ」
ごきゅ、と椿の喉が変な音をたてた。
おい、気管に入ったんじゃないか?
「何やってんだよ、大丈夫か?」
「けほっ、…っは…。す、すみませ…っ」
「喋んなくていいから、とりあえず落ち着け。待つから焦んなくていいぜ」
椿の話を聞くには気長に待ったほうがいいというのはもうよくわかってることだ。そうすればこいつは言葉を探しながら話をする。時間はかかるけど、椿の話を聞くのはけっこう好きだ。
「…っふ、ザキさん、ありがとうございます」
「落ち着いたか?」
「はい」
咳が止まっても背中をさすっていると、くすぐったそうに椿が笑った。見てるこっちが照れてしまいそうなくらい邪気のない笑顔。ビビリのこいつが俺に慣れるようになってから見せてくれるようになった表情だ。
こいつの声、言葉、笑顔。ひとつひとつがすげえ大切で、自分でもちょっと驚いてる。
…誰かを好きになるって、こういうことなのかもしれない。
背中から手を離すと改めて椿に向き合う。
「何か用事があるのか?」
「えぇと…すみません」
「は?」
いきなり謝られて思わず間の抜けた声を出してしまう。
椿の話が支離滅裂になることはたまにあるが、初っぱなから意味が通じないのはさすがにめずらしい。
「…謝られるようなこと、あったか?」
「あ、いや、その…あの、俺がここに来たのが、えっと…別に用事とかはなくて、それにこんないきなり、」
「別にいつ来てもいいけど」
「…いいんですか?」
「いいよ。椿なら」
好きな奴と一緒にいることを拒否するわけないだろ。理由や用事がなくても隣にいれるだけでうれしいもんだ。
そう言ったら、頭から湯気が立ちそうなくらいの勢いで椿が真っ赤になった。
「何その反応」
「だ、だってザキさんそんなこと言うから…っ」
「本当のことしか言ってねーよ」
「そ、そうなん、ですけど…」
両手でくるむように持ったマグカップに唇を寄せながら椿が言う。
「そういうことを正直に言えちゃうザキさんかが羨ましいし…大好きっス」
「…」
「…? ザキさん?え、なんで…あ、照れてます?」
「うるさい。椿のくせに」
「わっ!」
何するんスか、とじたばたする椿を抱き込んで黙らせる。
これだから天然はタチが悪い。でもそういうとこも可愛くてしかたないとか思ってる俺はアレだ。末期だ。
顔の熱が引くまでずっとこの体勢でいることに決めた。
真実を隠すなら腕の中
thx 空想アリア