「やぁ、椿君。こんばんは」
「…こんばんは、持田さん」

なんの変哲もないシティホテルの一室。
おかしいところといえば、充分に遅いといえる時間帯に顔を合わせるのが敵チームの選手で、もちろん男で、そいつを招き入れた部屋にはダブルベッドがひとつだけというくらいか。―――なんだ、おかしいところだらけじゃん。

「どうかしましたか?」
「ん?何が?」
「…笑ってるから」
「あぁ…この状況がおかしいなと思って」
「…」

少しだけ、椿君の視線が鋭くなる。不機嫌なような、こちらを咎めるような。
成人した男にしてはだいぶ大きく黒目がちなそれに見据えられて、腰の辺りから首の後ろまでがぞくりと震える。

「さてと。ご託はいいから、とっととやることやろっか」
「…っス」

無理やりため息を飲み込んだような椿君の腕を引くと、抵抗ひとつなくおとなしく従う。腕の中に囲ったまだ細い体をしばらく抱き締めていると、大きな目に疑問が浮かぶのが見えた。
さらにその奥には微かな怯えと、多大な期待に確かな欲望。

きっと椿君の瞳に映る俺の目にも同じようなものが浮かんでるんだろう。
あ、怯えはないか。じゃあ100%欲望だ。潔いよね、まったくさ。

「シャワー浴びる?」
「…」

ふる、と小さく横に首が振られる。手入れをしてない割りには柔らかく綺麗な黒髪に唇を寄せるとシャンプーの香りがする。妙に甘い。けど、椿君には似合う。

ぐ、と背中に回された手が俺の服を掴む。それを合図に椿君の服を脱がせた。

「っぷ、は…っ、んっ」
「日に焼けたねぇ」
「持田さんも、でしょう…っ」

ユニフォームの境目で変わる肌の色を舌で辿って、首筋にかぷりと歯をたてると椿君が息を飲む。ひくりと揺れる喉仏に噛み付きたい衝動に襲われる。
だんだんと呼吸が荒くなるにつれて体温が上昇していく。ドクドクと血液の流れる音が耳元でするみたいだ。

「もち、ださん…、もぅ…っ」
「…っ、俺も脱がせてよ」

ねだってみれば一度肩を震わせて、でも目だけは悔しそうな感情を灯して、言った通りに動く。
上を脱がせて、ベルトのバックルに手をかけて、少しためらったあと、金属のぶつかる音が二人きりの部屋に響く。

焦るのか恥ずかしいのか、ぎこちない動きに少し笑って俺も同じようにする。
お互いただ無言で相手を剥いてくなんてどんだけ余裕がないんだって話だけど、実際のところそんなものは全くない。早く目の前の男が欲しくて欲しくてしかたないんだから。

これがもう何度目になるかなんて、数えるのはとうの昔に止めた。
回数に意味はない。行為自体も、本来あるべき姿からしてみれば何の生産性もない時点で無意味だろう。生き物の本能としてはおかしいことこの上ない。

しかし俺たちはこれを何度も繰り返す。ただ、目の前の相手を食らい尽くしたい、ただそれだけ。本能?感情?異常か正常かなんてそんなもの知らない、興味ない。
欲しいものは手に入れたい―――それだけだ。俺も、椿君も。

そのためなら意味がなかろうが、常識から外れていようが、何度も何度も繰り返す。

一時の潤いを得るために。
たとえその後でさらなる渇きに苛まれるとわかっていても、俺たちは、





無意味な背徳をり返す




thx 獣





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