「ほい、んじゃそーゆーことで。クールダウンはしっかりしろよー。じゃ、解散!」
『っした!』

練習が終わり、みんなが三々五々に散っていく。
今日もやはり一日中暑い日で、ユニフォームは湿ってるどころか濡れてると言ったほうがいいかもしれない。絞ったらボタボタと水分が落ちるかも。

それでも気分が高揚してやまないのは、間違いなく今日のミニゲームの内容のおかげだ。
2アシストに1ゴール。俺が得意とするスピード重視の戦法であげた1点は、とにかく気持ちよかった。これで試合でも同じことができたらもっと気持ちいいんだろうな。

「椿ー」
「っ、はい!何ですか、世良さん」
「監督があっちで呼んでたぜ!」
「え、わ、はい!行ってきます!」
「おぅ、お疲れ」
「ウス!」

にっかりと笑って手を上げる世良さんにつられて笑って、その手に自分のものをバチンとぶつける。
何気ないやり取りだけど、こういうことができるのって俺にしてはかなりすごいことだ。やっぱ好きだなぁ、このチームが。

「ありゃ、椿どこ行くの」
「早くシャワー浴びろよ」
「あ、監督に呼ばれてるらしくって、」
「はっはー、反省会か!?」
「ゔっ」
「そりゃねーだろ、ゴール決めたんだし」
「まー、達海さんを待たせることはない。早く行けよ」
「ウス!お疲れ様っした!」

途中で会った石神さん、丹波さん、堺さんに会釈をすると、ぽんぽんと肩や頭を叩かれる。
気さくな人が多いんだよな…ぱっと見が怖くっても実はすごく優しかったりもするし。

そんなことを思いながら走って戻れば、さっきまであんなに暑かったフィールドががらんとしていて、気のせいか少し涼しく思えた。…というか…淋しい?

(監督、どこ…)

「椿」
「あっ、すみません!お待たせしました」
「いーよ。すぐに呼ばなかった俺も悪い」

ジャージのポケットに手を突っ込んで、フィールドの方を向いたまま監督が歩いてきた。
俺の目の前で足を止めて、しばらくはそのまま視線を動かさずにいたあと、うん、と呟いてやっとこっちを見た。

「あんな、ちょっとさっきのミニゲームのことで聞きたいことがあってさ」
「はい」
「まず最初のゲームの…」

監督の監督たる所以ってこういうものかと思う。

とにかくよく見てる。全体を見て、その全てをきっちり把握してる。外から見てるものだから中にいる俺らとは視点が違うってのはわかるけど、そういうのとはまた違う次元で、よく見てる人なんだって思う。

監督の質問が次々と飛んでくる。我ながらやっぱりしっかりとした答えを返すことが少なくて申し訳ない気持ちでいっぱいになるけど、思ったこと、感じたこと、小さいことも洩らさずに全部を監督に伝えようといつになく言葉を重ねた。

俺たちを導いてくれるこの人の、力になれるなら何でもしたいんだ。

「なるほどね。うん、よくわかった。サンキュ」
「はい」
「引き留めて悪かったな。しっかり休めよ」
「はい」

ぽん、と監督の手が頭に乗っかって、そのままわしゃわしゃとかき混ぜられる。
その間ぎゅっと目を瞑って、手の離れたタイミングで開けるともう監督は目の前にはいなかった。

振り返って、少しその後ろ姿を見つめる。

相変わらずどこかふわふわとしたような足取りなのは、頭の中であらゆることを考えてるからだろうか。
チームのこと、選手のこと、試合のこと。俺には窺い知ることはできないけど、監督の言うことに間違いはないって信頼してる。

遠ざかるその背中に一礼をして、踵を返した。





今日もまた
少しきになった




thx 獣





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