「眠いんなら寝れば?」
「そんなこと、ないです」
「ウソ。すげー眠そうな顔してるよ」
「ないですってば」
少し拗ねたような怒ったような、日頃ではあまり聞くことのない声色が耳に心地よくて、もっと喋らせたくなる。
といっても相手は既に半分寝かけてるようなものだ。とりあえず落とすと面倒なのでその手からグラスを抜き取った。
「ん、まだ…」
「だーめ。もうおとなしくしときな」
「ヤ、です」
「もー…」
いつものビビリな椿君はどこ行っちゃったの。俺相手に口答えなんて、酒飲んでなきゃ絶対あり得ないでしょ。
ま、言い方が子供みたいでおもしろいからムカついたりはしないけどさ。顔も膨れっ面で見てて飽きないし。
グラスを取り返そうと伸びてくる椿君の手首を掴んで押さえ付けて、ローテーブルに避難。
床にはラグを敷いてるから落としても割れないけど、濡れると面倒じゃん。今の状況じゃ俺が片付けることになりそうだし。
「持田さん、はなしてください」
「それこそヤだよ」
「…」
むぅ、と椿君の眉間が寄る。目も据わってるし。
おもしろい、と思って眺めてるとぷいっと椿君が顔をそらした。あげくにふらりと立ち上がって部屋を出ようとする。
「待って待って待って。どこ行く気」
「寮に帰ります」
「今から帰っても玄関閉まってるでしょ」
「じゃあクラブハウス。監督いるし」
「もっとダメ」
酔っぱらって素直に我が儘をさらけ出してるこんな椿君を、達海さんに見せるだって?冗談じゃない。
しかも何?今ごく当たり前に帰る場所として達海さんの名前を出したよね。何ソレ全然おもしろくない。
「椿君はここにいたらいいんだよ」
「だって持田さんイジワルだからヤです」
「じゃあ優しくするから。そしたらここにいる?」
「…」
ちょっと小首を傾げて考えたあと、こくん、と頷いた椿君の手を引いて座らせる…俺の上にね。
「さぁて…どうしよっか」
「んー…」
「もたれかかっていいよ」
いよいよ眠りこけそうなくらいに目がとろんとした椿君の体を抱き留めて、背中をあやすように軽くたたく。
嫌がるかな、と思ったらむしろ首に腕を回してきて甘えるように全身で擦り寄ってきた。
(わぉ、めずらし…)
懐きもしなかった猫が甘えてきたみたいでなんか、感動。いつもこうならいいのに…いや待て、たまにだからいいのか?
しかしあれだけの酒でこんなになっちゃうとかどんだけ弱いんだっていう話で。チームの奴らと飲みに行ったら―――あ、ダメだ、想像したら全然おもしろくない。やめよう。んでもって椿君には釘刺しとこう。
「もちださん」
「ん?」
「ねむいです」
「だろうねぇ」
「ベッドいきましょう?」
「…喜んで」
こんな誘い文句を言ってくれるなら、どんな我が儘だってきいてあげようじゃないか。
甘い夜をつれてくる
thx 獣