「…は、やってくれるよ…」

カラリ、と手の中のグラスが音をたてる。溶けて随分と形が崩れた氷ごとグラスの中身を空ける―――薄い。
不満は残るが2杯目を作る気も起きない。自分の意識のほとんど全てが画面越しに向き合う彼にいってしまっているのだと、いまさらながら実感する。

「ほんっと、意味わかんないよね」

彼に言うように呟いた言葉に返るものはない。
当たり前だ、ここには俺一人だし、当の彼は鋭いパスに反応してまた走り出す。

画面越しじゃあ、足りない。あの何ともいえない感覚はやはり、直接に彼と向き合ったときでないと味わえない。
一度知ってしまったら、もう他のものでは我慢できないなんて、とんだ毒性の強さだ。

ピッチの中と外で、というか、好調の波に乗れてるかどうかでこうも印象が変わる。そしておもしろいことに彼が変わればあのチーム全体も変わる。

あぁ、おもしろい、なんて言っちゃあダメかな。一応、敵同士だもんね、俺ら。でも俺って自分に正直だからさ。

おもしろいし、興味深い。まだ若い彼の成長を見ていたい。それと同時に二度と立ち上がれないくらいにメチャクチャに潰してやりたい。

相反する感情はしかしどちらもが強く強く、ただ一人だけに向けられる。
そしてその根底にあるものも実は一緒だ―――要するいに、俺は椿大介という人間が欲しくてたまらない。

力強くフィールドを駆け上がる彼も欲しいし、その足をへし折ってどこにも行けないようにしてこの腕の中だけに閉じ込めてしまいたいとも思う。

我ながらなかなか病的。

一際大きな歓声と実況の声が響いた。後半20分、ETUが逆転したらしい。
シュートを決めた奴へいちばんに駆けつけた椿くんも、あとから来た連中の手でもみくちゃにされてる。

ぐしゃぐしゃにされて困ったように笑うその姿に体のどこかがじくじくと熱を持つ。それが脳みそか心臓かなんて知らないし、別にどこだっていいんだけど。

しかしこの年になって嫉妬に苛むはめになるとは思ってなかった。しかもこれがなかなか手強くて困る。
自分で自分をコントロールできなくなるなんて本当にあるもんなんだねぇ。

「俺をこんな風にしたのは君が初めてだよ、椿君」

言ったあとでおかしくなって思いきり吹き出してしまった。

初めての相手、ね。
なかなかいい言葉じゃん。なんかジュンジョーっぽい。ま、そんなのは真逆だってわかってるけど。

俺の初めてを君にあげよう。だから君も俺に頂戴。
君の全て。体も、心も、言葉も視線も全部、全部。

でも君はピッチ以外じゃ俺から逃げてばかり。んでもって逃げられたら追いかけたくなるのが本能ってもんで。

「待ってるだけなんて性に合わないもんなぁ」

めんどうなことは嫌いだけど、気が向くとすっげーアクティブなんだよ、俺。

だからさ…





略奪でも悪くはないか




thx 378





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