一足先に目が覚めて、軽くシャワーを浴びて済んでも、まだベッドに沈んだままで起きてこない。
体勢も変わってないようだから熟睡の最中にあるんだろう。寝息に合わせて穏やかに肩が上下している。

無理をさせた自覚は、ある。久しぶりに会ったし、慣らすのに時間はかけたけど、受け入れるのに負担がかかることに変わりはない。
起こす必要もないから好きなだけ寝させておこう。コーヒーでも淹れようかとキッチンに向かいかけたとき、棚に置いてあるカメラが視界に映って、手に取った。

日頃から仕事に使うもののひとつだ。結構初期に買ったものだから、すっかり手に馴染んでる。フィルムが入ってるのを確認して、被写体に向かうために寝室へ戻った。

「…、ん…?」

シャッター音が部屋に響いたけど、たぶん起きないだろう高をくくってたら小さく呻いて顔をこちらに向けてきた。

「…おはよう」
「…は、よぅ…ござぃま………なにしました?」

ぼんやりとしていた表情が俺の手にあるものを見つけてゆるゆると変わる。めずらしく険しい、と言ってもいいくらいかもしれない。

「ちょっとな」
「なにがちょっと、なんですか、堺さん!」
「だから、つい」
「ついって…った、いったぁ…っ!」
「椿」

勢いよく起き上がりかけた椿がまた沈んだ。
枕に顔を埋めて、うぅ…と呻いている。その耳がじわじわと赤くなり始めた。

「当分寝てろ。風呂行きたいならつれてってやるけど」
「う、それは、いいですから、いま撮ったの消して…」
「デジカメじゃないから消せないぞ」
「えぇっ!いたっ!」
「だから寝てろって」

カメラを机に置いて、ベッドに腰掛ける。また枕に突っ伏した、癖のない黒い髪に指を差し込んでゆっくりと撫でた。

「悪いな、寝てるときに」
「…声が笑ってます」
「無断でカメラ向けたのは悪いと思うけど、いい写真が撮れたから後悔はしてない」
「もう…」
「綺麗だったからな」

シーツから覗くなだらかな曲線を描く白い肩が綺麗だった。緩やかに動くそのたおやかさに目を奪われた。触れたい、と思う前に、フレームに収めたいと、思う辺りは職業病かもしれない。もちろん、触りもしたいが。

「いいだろ。俺しか見ない」
「そーゆー問題じゃないです…」
「顔、上げろ。息できないだろ」
「むぅ…」

そろり、と見せられた顔は拗ねたようなものだったけど、ふにふにと頬をつついてると、耐えきれなくなったのか、小さく吹き出した。

「フィルムごと処分してくださいよ」
「嫌だ」
「堺さん!」
「残すに決まってんだろ」
「…変態」

なんだと、と頬をつねると笑いながら身をよじる。背けられた顔を追うようにのしかかり、距離を縮めるとおとなしく目を瞑る。
従順な姿に小さく笑いながら閉じられた瞼に唇を落とすと、疑問を浮かべた瞳を瞬かせた。

「ねだるのが上手いな…」
「な…っ、してません、そんなの」
「そう言うな。俺の育て方の成果だ」
「…っ、なに言って…!」

かぁ、と染まる頬に手を這わせ、前髪をかきあげ額にも口つける。それから羞恥に震える唇をそっと塞いでやった。



---------------<キリトリ>-----

ところでこの椿は何歳なんだろうか…大学?高校…まさか中学ってことはないはずですよね堺さん…。




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