指の間をすり抜けて落ちていってしまう、そんな恐怖に心臓が冷えた。



「たつみさん?」

ふ、と。

黒く澱んで固くなってた意識に光と暖かさが与えられる。
そのやさしいやさしい声に瞼が震え、そのとき初めて自分が眠っていたのだと知った。

「達海さん、大丈夫ですか?」
「…つばき?」
「はい」

隣で少し体を起こした椿が眉尻を下げた顔でこっちを窺ってた。

「どうしたの、そんな情けない顔…」

そう言ったらますます困ったような顔をする。
でも試合中以外では、こういう顔してること、けっこうあるかもな…。

「達海さん、こそ」
「…ん、」
「顔色、よくないです。いやな夢でも見ました…?」

するりとふれる椿の指があたたかい。

布団に入ってるはずなのに、体が冷たくなってる。
さっき感じた冷え冷えとした恐怖が蘇ってきそうで、咄嗟に指を捕まえた。

「わ、達海さん?」

意外と長くて綺麗な指先に唇を寄せると、相変わらず困ったような顔をする椿の目尻がほんのりと紅く染まった。

「達海さん、寝惚けてます…?」
「んー」

うん、そうだな。そういうことにしとこうか。

寝惚けたふりして椿の腕を引いて抱き締める。

あたたかい。ここにいる。腕の中に。どこにもいかず、俺のそばに。願うだけなら自由だろうか。思うだけなら許されるだろうか。
俺、椿のことに関してはお前以上にチキンでビビリみたいなんだ。…情けない大人で、お前を手放してやれない狡い大人で、ごめんな。

「たつみさん…?」
「…おやすみ、つばき」
「…おやすみなさい」

髪をすくやさしい手に意識をとかした。


---------------<キリトリ>-----

はなれないで、ここにいて、



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