ざあ、と雨が降り出した。
朝はあんなに天気が良くて週間天気予報だって今日は晴れだった。
走って帰りゃあなんとかなんだろ。そう思って下駄箱に行くと俺の下駄箱に一枚の手紙と真黒の傘がかけてあった。
手紙にはたった一言「どうぞお使いください。」。
名前は書いて無かったが字を見ればわかる。もっと言えば字なんかみなくとも傘だけで分かっていた。
相手の靴箱を見ると上履きだけ。もうすでに帰ってるらしい。
すこし走りにくいが傘をさして急いで帰り道を走った。
追いつかないかもしれないが、走った。
数分も走らないうちに傘の持ち主であるペコに追いついた。真黒の折りたたみ傘をさして歩いている。
左端が、濡れていた。
「、坊ちゃん」
朝、雨が降るかもしれないと言ってくれたのに傘を持たずに出た俺の代わりにお前が濡れる必要がどこにあるんだ。
「、折りたたみ傘持ってたのかよ」
自分の情けなさに軽い舌打ちをしたあとの言葉は何だかペコを責めてるみたいになってしまった。
ますますやるせ無くなる。
「わざわざ心配してくださったんですね。…ありがとうございます」
違うだろ、礼を言わなきゃいけねえのは俺だろうが。
言わなきゃいけねえ事は分かっているのに言葉が詰まってでてこねえから、そのまま黙ってペコの隣に並んだ。
ペコの左端を借り物の傘で濡れないように被せながら。
「濡れてしまいますよ」
「うるせえよ」
ずぶ濡れの予定が左肩だけで済むなら十分だろ。