イサドゥ


イサアク、と呼ぶと眼前の彼は「はい、女王陛下」と答える。

面影の中の彼と復讐に身を投じた私が混じったこの人はとても冷たい目をしている。

面影の中の彼はいつも笑っているのに、私はそれを形作ることができない。
思い出すたびにうなされて目が覚める所為だ。

「イサアク、イサアク」

杖を振ると彼が「はい、女王陛下」と枕元に立つ。手首を捻る。これは合図じゃなくて指示。
そうすれば彼は私の額の汗をその指で拭う。

姫様、と呼ぶ彼の声が耳にこびりついてるのに、現実ではもう呼ぶ人はいない。
いいえ、いるわ。目の前に、イサアクは生きてる。

「イサアク、昔みたいに姫様と呼んで」
「はい、女王陛下」

目の前にいる人はただの複合魔法のお人形。私が組み上げた命令式通りにしか動かない。
落ちる涙も、私の命令が無ければ拭わない。

頭が重くて目を閉じる。酷く疲れているのに、眠れない。
だから貴方を思い出すけど、顔が、日に日に黒く塗りつぶされていく。思い出せなくなる。
あの日の生暖かく飛び散る血の温度は嫌でも肌へこびりついているのに、どうして。

目を開ける、真っ黒な顔が覗き込んでいる。優しく笑ってその手で悪夢を拭って。
呼吸が整うまで優しく頭を撫でて。眠れるまでお話を読んで。

命令よ。



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