だから似合わないって言ったのに。
俺だけが何も知らなかった。俺だけが馬鹿だった。だから、この赤はもう着ない。
そう泣きながら今まで自慢で誇りだった赤いジャケットを捨てた彼に私はため息のように呟いた。
「…っ、」
涙もろい彼。
それでも数日前とは違って堪えようとしていた。結局、ほろりと滴が落ちてしまっていたけど。
「やっぱり、彼女も知ってたんだな」
「もちろん。」
何か言いた気に私を見る目に力が加わる。だけど私は素知らぬ顔をした。
知っていたわ。
貴方は勉強できなくて検事としても三流だってこと。でも、それでも。
貴方の父親の力に惚れたんじゃあないの。媚びるために好きだと言っていたわけじゃあないの。
だから貴方の父親の力の象徴みたいなあの赤いジャケットが私大嫌いだったの。
私がそれに好きだと言っている何て思われたりしたらお腹の底でぐるぐると負が煮詰まるほどに。
「弓彦」
今から似合うように頑張ればいいじゃない。そんな台詞はもう誰かに盗られてしまってるわ。だから、私は私にしか言えない一言で。
「一柳ではなくて私は弓彦の恋人よ」
折角堪えていたのに、ぼろぼろと涙を零して「今度はこの赤に恥じない検事に自分の力でなる」そう泣いた。
やっぱり赤色は嫌いだわ。
私から貴方を取ってしまうもの。