「私ね、やっと気づいたの」
彼女は本当に幸せそうに笑ってた。
彼女の手で包まれているマグカップはもうぐずぐずと腐るようなことはない。
「善吉くんは、」
今でも変わらず私の王子様なの。
人吉くんと出会ったお陰で球磨川先輩と出会った所為で彼女は控え目だけど酷く幸せそうに笑うようになった。
生徒会役員として他の生徒と積極的に接するうちに彼女は可負荷でありながら人から愛された。
いいや、彼女はこんなにも可愛らしく笑い、そして莫迦みたいに健気なのだから、今まで誰からも愛されなかったのが可笑しいのだ。
可負荷な過去によって彼女は人から遠ざかっていた。人を愛せないし愛されないと勝手に思い込んでしまっていた。
その手が全てを腐らせていたときもそれは変わらなかったはずなのに。
「でもね、王子様は運命の人じゃない」
あの人を愛していなかったわけじゃない。ただ、運命の人じゃなかっただけよ。と彼女は言う。
人吉くんは相変わらず怒江の中では愛しい王子様のままだし。運命の人は怒江の過去を体感していないままだし。
「…おめでとうって言って?」
どうして?
思ってもないこと言えない。でも、酷く悲しそうに空になったマグカップに視線を落とす彼女に私は仕方なく一言。
「もっともっと幸せになれるわ」
私がいなくとも。
その指輪がぐずぐずに腐ったってね。